-第十三章- 鏡面化(1)
-前回のあらすじ-
秋葉原へ向かったくーちゃんは、予定通り調査を続ける。
ホームに立ったその時から、俺は自分の力に恐れおののいていた。電車を待つ人、その一人一人に数多の数が浮かび上がっている。その中に見つけてしまったのだ。ホームへと転落する確率―、死亡する確率―。
気が付けば俺はその数字から逃れるように、上野公園の片隅で座り込んでいた。ここは東京なのだから、俺に逃げ場はない。人に会わないことなどできない。それはわかっている。だができる限り会いたくなかったのだ。もし何かの拍子にその数字に触れてしまったら。その時には俺は人一人をこの世から消すことになる。殺すことができる。それほどの力なのだ。
ぼーっと噴水を眺めているとその人ごみの中に、少し変わった数字を見つけた。それは他の人にはない確率―。否、見たことがある。ついさっき気が付いたばかりの『死亡率』だ。ではなぜそうと気づかなかったのか。それはその数値が、その確率が、異常なまでに高かったから。『43.1%』およそ1/2もの確率で死ぬ。信じられなかった。俺は人の運命までも見通せてしまうのか。そこでようやく気が付く。今日この東京で死ぬ人間、それはまさに事件そのものなのではないか。自分から遠ざかるその数字を追い、俺は人ごみへと一歩踏み出した。
その数字は上野駅へと向かった。山手線外回りのホームで少し立ち止まる。誰かと連絡をとっているようだ。それを待つ間に俺はお気に入りのエナジードリンクを買うことにした。自販機にお金を入れ、飲み物のボタンを押す。
その時視界の端にちらつく数字が見えた。『1.25%』自販機であたりが出る確率ってこんなにも低かったのだと知った。俺は興味に負けてその数字に触れてみることにした。昨日ほどではないが倦怠感が体を襲う。さすがに九割当たるようにするのは辛いので五割を超えたところでストップした。買った飲み物を手に取りルーレットへ目をやる。
そこには小さな黒い十字架と、きれいに整列する7の数字があった。自販機からはやたらと愉快な曲が流れている。少しうれしくなった俺は、黒い炭酸飲料のボタンを押した。少ししてから気が付く。二本目をもらったところで飲み切らないということに。今後自販機のルーレットで遊ぶのはやめようと思った。
エナジードリンクの缶をゴミ箱へ放り投げ、黒い炭酸飲料をカバンにしまうと、ちょうどその数字は電車に乗るところだった。ホームについてからすでに電車は二本目だ。扉が閉まると電車はゆっくりと駅を後にした。
電車内は休日ということもあり、観光客が多い。外国人もちらほら見かける。中には大荷物を持っている人もいて、通勤ラッシュの混み方とは似ても似つかない。例の数字はいまだ五割ちかい数値を示したまま吊革につかまっている。今この瞬間にもここで倒れるのではないかと思うと気が気ではない。だがしかし、俺が今助けを求めたところで誰も信じてくれないのがオチだ。そう思い監視を続けた。
その数字が行動を始めたのは予想外にも早かった。上野から数駅、秋葉原で電車を降りた。ホームで見失わないよう、俺は数字の跡をつけた。すると駅内のコンビニへ入っていった。ふと腕時計を見る。ちょうど十二時を回ったところだ。俺もそのコンビニでおにぎりを買うと、再び数字の跡を追った。
秋葉原と言えば、くーちゃんの担当地域だったか。くーちゃんに連絡して後は任せてもよいのだが、いかんせんこの数字が見えるのは俺だけだ。他人に対象を伝えるのは難しい。仕方なく人ごみをかきわけて後を追うことにする。その数字は、電気街口から外へ出ると、すぐに右に曲がり中央通へと出る。その後中央通を渡り、裏通りへと抜けた。中央通から離れると、少しばかりではあるが混雑が和らぐ。その数字は萌え系ショップやパソコン専門店には目もくれず、人だかりの少ない方へと歩いていった。
私M.P.P作品のセルフパロ「キャラと作者の弾劾裁判」が本日21時すぎに公開予定となっています。珍しくギャグ路線のお話なのでぜひご覧ください。