-第十二章- 影(3)
-前回のあらすじ-
凛さんの残した予言をもとに、各々調査のため街へ繰り出す。
その後も、中古ゲームショップ、家電品店、アイドルショップなど様々な店を回ったが、これと言って異常は確認できなかった。歩き疲れたこともあり、迷った挙句そばにあったカフェで一息つくことにした。ついでにトオルたちとも連絡をとろう。
「お帰りにゃさいませ、お嬢様」
突然店員にかけられた一言にあっけにとられ、私はしばらく立ち尽くしてしまった。
「どうかにゃされましたかニャ?もしかして、お嬢様はわたくしたちのことお忘れですかニャン…?」
俗に言うこれがメイドというやつなのか。しかし私の認識とは異なりネコミミを付けて猫言葉で話しかけてくる。
「あ、あの、初めてなんですけど…」
私は状況が飲み込めないまま、そう答える。まさか以前に私はここの常連だったりするのだろうか。
「本当に忘れてしまうにゃんて…。かしこまりましたニャ。一から教えてあげるのニャ」
そう言われて差し出されたパンフレットを見て、ようやく理解できた。『メイド喫茶アキバにゃん×にゃん☆』と書かれているあたりから察するに、ネコミミメイドが売りのようだ。というか看板も確認せずに入店した私がばかだった。メイドさんに申し訳ない。とりあえずコーヒーを頼もうと呼び鈴を押すと、奥からメイドさんがやってきた。
「お嬢様、何かご注文ですかニャン?」
こう見るととてもかわいい。私も一度ネコミミつけてみたいかも―いや、ダメだ。トオルにバカにされるのがオチだ。瀬奈さんは大歓迎してくれそうだけど。
「ええと、このクリームたっぷりにゃんにゃんみるくコーヒーってやつ一つ」
メニューに書かれた名前がやたらと長い。昨日行ったカレーラーメンのお店より面倒な名前だ。コーヒーの注文を終えたところでトオルに連絡してみることにした。先ほど交換した電話番号へと発信する。しばらく呼び出し音が鳴った後、聞き覚えのあるテンプレートが再生された。
『ただ今、電話に出ることができません。』
電源が切れてしまったのだろうか。それならば心配はない。だがもし仮にも事件に巻き込まれているのだとしたら―。少し怖くなり瀬奈さんに電話をかけることにした。私の心配とは裏腹に瀬奈さんは明るい声で電話に出た。私が『アキバにゃん×にゃん☆』にいることを告げると、それは嬉しそうにこのお店のことを語ってくれた。もしかしたら瀬奈さんはこういう店が好きなのかもしれない。