-第十二章- 影(2)
-前回のあらすじ-
倉庫で朝を迎えた一同は、朝食を食べ行動開始を待つ
朝食の片づけも終わるころ、私は一つ提案をすることにした。それは凛さんの予言についてである。彼女はその最期まで組織について調べていたのだ。できることならその意志を引き継ぎたい。
「あのさ、昨日大切な人が殺されちゃったって言ったじゃん」
みんなにあったことで少しは和らいだ心の痛みがまたぶり返してくるのがわかる。だがここで話すのをやめるわけにもいかない。
「その人が予言を残してるんだ。今日、また事件が起こるらしいの」
私は一思いに事情を話した。話すことで気が楽になることはなかったが、真剣に聞いてくれるみんなをみて、少し安心できる気がした。
「そうか。だがどこで何が起こるかはわからないのか?」
神城さんが問いかける。
「ああ。これ以上のことは俺たちも警察から聞いてない」
私に変わってトオルが答えてくれた。事実私たちも何も知らないに等しかった。知っていることと言えば、今日何かしら事件が起こる、ということだけである。
「どこで起こるかもわからないなら、手分けして近辺を巡回するっていうのはどう?」
瀬奈さんがそう提案した。東京は広すぎるため手分けしてもうまく見つかる保証はないが、それでも場所も時間も分からない以上仕方がない。
「できるだけ多くの場所を回りたいから個人行動にしないか?」
トオルも賛成する。あらかじめ携帯の連絡先を交換しておき、なにか会ったらすぐに連絡することにした。どうやら私たちがこの一連の事件を追うことに反対する者はいないようだ。
「能力者が片っ端からやられている今、俺たちも安全とは言えない。次の被害者にならないように気を付けろよ」
神城さんが心配そうにそう言った。犯人が能力者の可能性が高いとなると、その能力の影響を受けない私は比較的安全なのかもしれない。むしろ心配すべきは神城さんと瀬奈さんだろう。
「くーちゃんも気を付けてね」
瀬奈さんも心配してくれた。少し沈黙があった後、各々担当場所へ向け出発した。
私の担当は秋葉原だった。例の倉庫は神田にあるから、そこから近くの秋葉原へはすぐにたどり着いた。私がここの担当になった理由はとても単純なもので、能力者でありながら物理的な攻撃に弱いため、万が一のときに逃げ回りやすいように近場で歩行者天国になっている場所を選んだ、ということである。
それにしても休日の秋葉原ともなるとひどい人ごみである。街ゆく人々は、アニメのキャラクターが大きくプリントされたTシャツを着ていたり、大きな家電品を抱えていたりする。さすが電機と萌えの秋葉原というだけはある。しかしこの人ごみでは見回りをするのも一苦労だ。道を歩くだけで疲れ果ててしまいそうなほどに。
そこで私は、店の中も回ってみることにした。まず、秋葉原駅電気街口を出て正面にある大型家電量販店に立ち寄ることにした。パソコン関連商品を主に扱っているらしい(看板にパソコン館とかかれている)この店には、中国人と思われる人々でごった返していた。店員も中国語を話せる人が多いらしく、店内での会話はほとんどと言っていいほど理解できない。
エスカレーターで上へのぼっていくと、あるフロアでモニターが大量に陳列されているのが目に入った。そのモニターには、『研究室で自殺、動機は研究の行き詰まりか』という表題とともに、凛さんの家が映し出されていた。見回りをすることで気も紛れるかと思っていたが、神様はどうやら簡単には忘れさせてくれないようだ。これ以上見ていたくなかったので、この店を後にした。




