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円い十字架  作者: M.P.P
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-第一章- 歯車が目を覚ます(2)

今回から読みやすいように会話のまとまりごとに空白行を入れてみました。


-前回のあらすじ-

記憶がないまま目を覚ました瀬奈は、知らない少年に声をかけられる。その少年に「研究所」を紹介される。

 しばらくしてシルバーのワンボックスが私たちの前で停車した。窓から髪の長い女の人―この人がさっきトオルの言っていた女性研究員だろうか―が顔をだして乗れといった。研究員というからもっと歳のいった人をイメージしていたがずいぶん若い。車の中はものがたくさんある割にはきれいになっていた。トオルいわく車内の書類には触らない方がいいらしい。運転している女性は運転しながら、私に訊きたいことがあると言った。


「お前は、一連の事件についてどう思う?」

「事件、ですか?すみませんが、記憶がないもので」


そうか、とうなずくと彼女は質問を続けた。


「では、お前は何を望み、何を手に入れた?」


この人は何を言っているのだろう。欲望ならば誰にでもあるし、いつ何を望んだか正確に覚えている人間などいないだろう。そもそもこの質問の意味はあるのだろうか。


「望みって将来の夢とかですか?それとも……」

「いや、もういい。この質問に常識的な反応をする時点で一般人である可能性が高いということだ」


ますます何を言っているのか分からない。一般人と言っていたが、彼女にとっての一般人でない人間というのは一体どんな人のことをさすのだろう。ふと気になって書類に目を落とす。もちろん触れないよう細心の注意を払ってであるが。その書類には「より上位の次元からの三次元への干渉」と題がつけられていた。しかし、内容を読もうとしても難しくわからない。


「なんだ?興味でもあるのか?」


しまった。気付かれてしまった。怒られたりするのだろうか。


「す、すみません」


私は謝る。だが彼女は怒ることもなく一つの質問を投げかけてきた。


「お前は四次元、取り立てて現在の三次元に時間軸tを加えた次元についてどう考える?」


今までの質問よりも興味深い質問に思えた。私は以前からこういった話は好きだったのだろうか。もしくは私の過去に何かあったのか。だが、興味はあるものの漠然とした答えしか浮かんでこなかった。


「ええと、タイムスリップできる世界とか」

「確かに、よくそのように言われるな。だがしかし私は少し違った考えをもっていてな。少し難しい話になるが聞いてもらえるか?」


私はうなずいた。


「まず、時の定義からだ。あくまでこれは私個人の考えであることを理解したうえで聞いてもらいたい。目の前にパラパラ漫画があったとする。まずはゆっくりめくっていこう。そうするとただ絵が何枚も書いてあるだけに思えるだろう。だがしかし、早くめくると多少カクカクしているものの動いて見える。またページは逆向きにめくることもできる。このページの増減を時間だと考える。するとわずかではあるがページとページのめくる間に時間があるとわかるだろう。それをΔtとおく。現実世界では時間は連続している。だからパラパラ漫画のように考えることは不可能だ。だがもしこのΔtを限りなく0に近づけられたらどうなるか、ということだ」


「ごめんなさい。よくわららないです。でも、なんか積分の定義みたいですね」


正直難しくてわからない。だがふと積分の定義に似ていると思ったのだ。線が面になるのなら立体がそれ以上になってもおかしくはない。


「凛さん、それくらいにしたらどうなんだ?瀬奈は記憶がなくなって混乱してるんだから」

そうだな、とトオルの意見に彼女は応じた。

「瀬奈というのか。私は凛だ。藍沢凛。よろしく。それよりわざと難しい話をしたかいがあったな。一つ分かったことがある。君は積分を学習するレベル以上の年齢だ、ということだ」


この人想像以上に切れ者かもしれない。初めから私の年齢を推測しようと狙っていたに違いない。だがおかげで一つ疑問は晴れた。凛さんの言っていることが本当なら私は高校生以上だということになる。友達もいたはずだ。家族だって。今頃どうなっているのだろう。


 研究所と言っていたが、ついてみるとそこまでたいそうなものではなかった。普通の家である。失礼します、とお辞儀をしてはいったもののお邪魔しますのほうが適切だったのではないかと思うほどである。事実凛さんはトオルと二人で住んでいるようだ。


 玄関を上がって右手にはリビングがあり、まずはそこに通された。凛さんが飲み物をもってきたが、正直のどはあまり乾いていなかった。だが凛さんは飲めという。色からするにジュースだろうか。仕方なく私はコップに口をつけた。―と次の瞬間、いままで体感したことのない味が口の中に広がった。苦いような、それでいて甘く独特の香りを放ち、そして胃が熱い。まさか、と思った時には遅かった。酒だ。

凛さんが小難しい話をしていますが、この辺も後々関わってくる(かもしれない)のでぜひご期待を(笑)

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