-第十一章- 翼(5)
-前回のあらすじ-
病院から逃げ出した一行は、近くのレストランで食事をすることになる。
店内はいわゆるファミレスといった様子で、子供連れの家族も何組が見受けられる。
「ファミレスなんて久しぶりだな。凛さんと着て以来か。あ……」
トオルはそう言うと黙り込んでしまった。倉庫での話から察するに、殺されてしまった大切な人というのが凛さんという人なのだろう。
「辛いとは思うけどさ、今くよくよしたって仕方ないよ。ほら、男でしょ?シャキッとしなよ」
瀬奈がトオルを励ましていた。こういう気配りができるところに俺は惹かれたのだ。そう言えばここのところ事件続きで、結局彼女には思いを伝えられずにいる。果たして伝えられる日は来るのだろうか。そんなことを考えながら席に着いた。ちょうど四人席のテーブルが開いていたので、待つことなく座れたのはよかった。メニューを開くとやはりカレーラーメンとかいうものを押しているようで、一面がそれで飾られていた。
「よし、私はこれにする」
ほかのメニューには目もくれず、瀬奈が真っ先に指さしたのは案の定カレーラーメンだった。
「私もそれがいいな」
くーちゃんもそれに続く。さすがクローンなだけあって好みも似通っているのだろうか。俺の隣ではトオルが険しい顔をしてメニューをにらみつけている。しばらくして突然メニューをたたきつけたと思うと、カレードリアと書かれた面を開いてベルを押してしまった。三人とも俺のメニューが決まっていないことに気が付いていないかのようだ。
「カレーラーメン二つで」
「僕はカレードリア一つ」
みな口々に注文していく。俺は完全にタイミングを逃してしまった。仕方なしに、カレードリアの隣に載っていたオムライスを頼むことにした。その後瀬奈が確認もなしに全員分のドリンクバーをつけたところで注文は終わった。
注文してからはさほど待つことなく料理がはこばれてきた。その間に全員飲み物もとってきていたのでさっそく食べることにした。カレーラーメンというものは名前の割にはおいしそうな香りと見た目だった。そして俺の注文したオムライスはというと、それはそれはスタンダードなものだった。特にケチャップで文字が書いてあるわけでもなければ、ソースがカレー味だなんてこともなかった。
「そう、これこれ。カレーラーメン食べ逃すなんて藍沢さんもついてないな」
瀬奈が麺をすすりながらそう言った。どうやらこれが藍沢さんの好きなちょっと変わったメニューということのようだ。正直変わっているのはちょっとどころではない気がするが。そのちょっとどころではなく変わった料理とは打って変わって俺のオムライスはふつうだった。もちろん見ため通りと言われればその通りであるし、そうである以上特に驚きもなかった。
「このドリアもうまいな。チーズがこんがりしてておいしい」
カレードリアというものもなかなかおいしそうだ。先ほどから見ていて察するにここの店はカレーが売りなのだろう。今更ではあるが、俺もカレー料理にしておけばよかったと後悔した。
食事も終え倉庫へと帰った俺たちは、さっそく寝る支度を始めた。普段ここには瀬奈と藍沢さんの二人しかいないようで、布団が足りない。一応倉庫の奥から破れかけの布団が一つ見つかったが、どちらにせよ四人で寝るには足りなかった。このままでは誰かが二人一緒寝なければならないわけだ。瀬奈いわくくーちゃんを俺と寝かせるわけにはいかないそうで、またトオルに迷惑をかけるわけにはいかないとのことで、俺がぼろぼろの布団で寝ることとなった。瀬奈の布団には本人とくーちゃん、藍沢さんの布団にはトオル、といった割り振りである。布団が決まったところで、風呂に入ったり歯磨きをしたり、各々準備をして布団に入った。