-第十一章- 翼(2)
-前回のあらすじ-
異能力を発現させた陸斗は、瀬奈とともに病院を後にする。
俺はそのまま体力の消耗で気を失っていたのだろう。気付いた時には古びた倉庫の前に瀬奈に抱かれたまま立っているところだった。
「あ、やっと起きた」
瀬奈がそう言いながら微笑んでいる。隣には少年と瀬奈のようなものが安心したような表情で立っていた。正直俺も安心した。何より瀬奈が目を覚ましたのだから。今はそれだけで十分だ。瀬奈の案内で四人は古びた倉庫へと入った。
倉庫の中には予想していたよりも小ぎれいな空間が広がっていた。少し薄暗いことを除けば完璧と言っても過言ではないほどの隠れ家である。俺たちは中央に置かれたテーブルを囲んで、今までのこと、今後のことを話しあうことにした。
まず、俺は浩二が亡くなったこと、警察の提案でさっきまであの病院にいたこと、そして薬に耐えかねて自殺を図ったことを伝えた。みな納得してくれたようだ。
次に瀬奈が口を開いた。まずあの施設についての説明から始まった。瀬奈いわく、あの施設は能力研究組織のものだそうだ。表向きには病院となっているため、一般の患者も多く来院しているようではあるが。
そしてその組織の目的は、人工的に能力者を生み出すこと。だがそのためには多くの一般人、それも能力に目覚める素質のある人間を虐待し、半ば殺して無理やり能力に覚醒させるのだそうだ。そして今度覚醒したらしたで、別の施設に収容され毎日能力の研究のモルモットとなるのだそうだ。聞くだけでもぞっとする。
しかし彼女はそれ以上研究について語らなかった。瀬奈もその施設に捕まった人間の一人なのだそうだ。きっとひどいことをされてきたに違いない。あるときその施設はとある計画を実行に移した。感応派による集団覚醒。それは能力そのものを具現化させる力を感応派と呼ばれる特殊な波長に乗せて拡散、多くの人間を人工的に覚醒させようという計画らしい。
だがその研究にはリスクもある。確実に能力に適合できない人が生まれ、何人もの人が苦しみながら死んでいくことになるそうだ。そしてなんと、その計画の要となる具現化能力者、それが瀬奈だということらしい。
彼女は大勢を死に追いやる計画をつぶすためになにができるか考えた末、自殺まで考えたという。しかし事件が起きたのは数週間前のこと。瀬奈は突然拉致されたのだそうだ。それも施設の人間に。施設は瀬奈に様々な薬や能力などを試して、その具現化能力をより強力なものにしようとしていたようだ。こうして拘束されてしまった瀬奈は自殺すらできなくなってしまった。そこで瀬奈は、自分が死んでいるという状態を具現化し、仮死状態に陥ったのだという。そうして俺が見つけた時には、病人としてあの施設にかくまわれていたようだ。
これでことは一件落着したかのように見えた。だがそう簡単にはいかないものだ。瀬奈は知っていた。自分がもし研究の結果死んでしまった時のため、自分のクローンが作られていたらしい。そのクローンは薬や能力の力で、瀬奈とほぼ同程度の能力を有し、かつ数週間で高校生くらいまで成長、記憶もコピーされる予定だったという。こうして作りだされた人間がもう一人の柏木瀬奈、ということのようだ。