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円い十字架  作者: M.P.P
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-第九章- 日常への浸食(2)

-前回のあらすじ-

 ふいに目が覚めた瀬奈が廊下へ出ると、立ちすくむトオルを目撃する。近づいてゆくと、自らの腹部にナイフをつきたてた凛さんが息絶えていた。

 数多の思考を巡らせていると、いつしか朝になっていた。結局寝てしまったのか、それともずっと考え事をしていたのかはわからない。下のベッドを覗き込むと、そこには資料を広げるトオルがいた。それは例の病院の資料だった。どうやらトオルも私に気が付いたようで、おはようとあいさつをしてきた。どうやらトオルもあの後ほとんど眠れていないようだ。


「瀬奈、今でもここに行ってみたいと思う?」


凛さんが死んでしまったショックですっかり忘れていたが、今日は病院の調査に行くはずだった日なのだ。当然今でもただならぬ興味を持っていることは確かだ。


「行きたい。なぜかはわからないけど、そこに凛さんの死の真相も隠れている気がする」


すべてはこの病院にあるような気がするのだ。これといって根拠はないのだが。


 唐突にノックの音がして扉が開いた。トオルは慌てて資料をしまっているようだった。部屋に入ってきたのは渡辺刑事だった。


「昨日の残念な事件だが、大方整理がついた。ある程度のことは報告しておくよ」


渡辺刑事はそう言うと、カバンの中から資料の束を取り出した。


「結論から言うと、我々警察は他殺とみている。しかも一連の能力者殺しと同一犯だとにらんでいる。ただし、報道は自殺となっているからくれぐれも他殺の件については他言無用で頼む。それと、あの後調べてわかったことだが、おそらく凛は能力者だったんだ。俺でも気づかなかったんだ、お前らが気付かないのも無理はないさ」


そこまで言ったところで渡辺刑事は少しうつむいた。あまり気にしていなかったが、渡辺刑事は昔からの凛さんの知り合いなのだ。彼とてショックなのだろう。


「それで、どんな能力だったんですか」


トオルが訊いた。それは私も気になっていることだ。一体どんな能力なのか。その危険性ゆえに殺されたのだとしたら―。渡辺刑事はゆっくりと話し始めた。


「未来予知、といったところか。彼女のパソコンから興味深い文献が見つかってね。今回の連続殺人事件の記事だったんだが、その書かれた日付がどうもおかしいんだ。すべて発生する二、三日前に書かれていたんだよ。隠しフォルダになっていたことから、他人には見られたくなかったのだろうと思われる。だが気になることが、自分自身の事件が含まれていないことと、明日発生する事件の内容が記載されている点でね。これに関しては現在も警察で調査中だ」


もし渡辺刑事の言っていることがすべて真実なら、明日何かが起こることになる。それはまた自分の真実に近づくことでもあるような気がした。


「それで、僕たちはどうなるんですか」


トオルが訊く。確かに事件の第一発見者でアリバイがないとなれば当然容疑者となるだろう。だが渡辺刑事は何かしら案がある、といった表情をしている。


「それに関してだが、今回ナイフからは本人の指紋しか見つかっていない。もし能力者が犯人なら当然可能なことだが、上への報告としては自殺となっている。だからまた呼び出すことはあるかもしれんが、とりあえず開放ということになる」


意外な返答だった。つい先ほど能力者が犯人とみられると言っていた以上、私たちも疑われているものだと思い込んでいた。しかし、どうやらそうでもないようだ。


「そうしたらこの後は自由ということでしょうか」


渡辺刑事に聞いてみる。


「ああ。だが、殺人現場へ君たちを返すわけにもいかん。こちらでアパートを一時的に手配しているからそっちに向かってくれるか」


そう言うと渡辺刑事は私たちに住所を渡してきた。どうやらこれがアパートの住所らしい。ついでに渡された資料によると、最低限の家具はそろっているようだ。その資料と地図を手に、私たちは警察署を後にした。


 外はすでにずいぶんと明るくなっていた。そばのコンビニで昼食を買うついでに、今後のことを話し合うことになった。


「あのさ、この後なんだけど……。もしよかったらこのまま病院の調査に行かない?」


私は思い切って提案してみた。正直少しでも早く行きたい、という思いだった。そこに私の過去が隠されているような気がするし、何より凛さんの事件の秘密もそこにある気がしたのだ。


「そっか。そうだよな。自分が誰かも分からないままなんて嫌だよな」


トオルは少し迷ったようなそぶりを見せたが、私の誘いを受けてくれた。


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