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円い十字架  作者: M.P.P
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-第三十一章- 眠る歯車、舞う粉雪

-前回のあらすじ-

 四人の能力を合わせて、ついに世界を能力をすべて抹消する。

 気付けばもう、季節は冬になっていた。あの事件があったころも、今となっては懐かしく感じる。


「さすがにこの季節にもなると寒いわね」


前をゆくリクに声をかける。せっかく今日はクリスマスイブだというのに、どうしてだか会話が続かない。


「ねぇリ、リクってば」


先ほどからそわそわしているし、こちらの話も筒抜けのようだ。


「え、あ、ごめん。なんか言ってたか?」


やはり聞いていなかった。悔しいから怒ったふりをしてやろう。


「言ってないし、もう知らない」


そっぽを向いてリクを追い越してみる。


 背後から駆け寄る足音が聞こえて、突如私の右手が握られる。


「なぁ、瀬奈。俺さ、ずっとお前のこと、好きだったんだ」


顔が火を吹くように熱い。さっきまで怒っていたはずだったのに、もうそんなことは銅でも良くなってしまった。


「え、好きって、その、好きってこと?」

「ほかにないだろ」


私たちを祝うように、曇り空からひらひらと雪が舞い落ちてきた。


「ホワイトクリスマスだな」


そう言うリクの横顔は、いつもの数倍もかっこよく見えた。


 なんだかロマンチックだけれど、そんなものは私たちには似合わない気がしてならない。リクから右手を話すと、思い切り伸びをしてみた。


 と、そのとき、私の右手から小さな紙切れが落ちる。


「おい、それ、落とすなよ」


そこにあったのは、私が前から行きたいと言っていた、テーマパークのチケットだった。


「ペアだから、なくすなよな」


そう言うリクは、照れくさそうで、とてもかわいい。


 すると、ちょうど向かいから双子と見紛うほどそっくりな二人組が歩いてくる。


「あら、あなた達クリスマスデートかしら?」

「雪も降ってきたし、完璧だね」


そう言う二人はくーちゃんと、No75Cだ。


「せっかくお二人のところ邪魔しちゃって悪いんだけど、お墓参りにでもどう?」


No.75Cが明らかに意地悪をするような表情をしている。でも、どうせ行くならみんなで行った方がいい。


「ああ、ぜひとも行かせてくれ。瀬奈もそれでいいか?」


リクも同じことを考えていたようだ。


「ええ、もちろん」


四人で雪の中、町はずれの墓地に向かった。


* * * * * * * * * * * * * * *


 目的地に着くころには、だいぶ雪も積もり始めていた。そこにはすでに先客がいて、ちょうど花束をお供えしているところだった。


「これで少しは報われるだろ」

「ふん、私をよくもだましてくれたな」

「おい瑠衣、その言い方はねぇだろ」


そこにいたのは、藍沢蓮と、凛さん、否、瑠衣さんというべきだ。その二人だった。


「お前たちも来たのか」


瑠衣さんとあいさつをする。四人で一つ花束を置くと、目を閉じる。


 あなたたちの願った世界は訪れました。今こうしてリクやほかの仲間たちといられるのも、きっと二人がいてくれたおかげです。これからもずっと、見守っていてください。


「ほらみろ、こいつらも四人で一つだっただろ?」


藍沢さんが文句を言っている。


「私は一人一つがいいと思ったんだがな……。まぁ結果的に二人で一つにしてよかった」


私たちが四人で一つの花束を選んだように、藍沢さんたちも二人で一つの花束を贈ったのだろう。


 墓石の前には、三つの花束が、雪に凍えるようにひっそりと飾られた。


「全く律義なやつだ。案外負い目に感じているんだろうな」


後から置かれた二つの花束に比べ、雪の積もった一つの花束を指してそう言う。私たちの前に姿を現さなかった彼も、どこかで救われていることを祈った。


 私たちが立ち切った十字架は、きっとずいぶんと小さなものだったに違いない。それに、本当に十字架を断ち切れているのかさえよくわからない。


 もしかしたら、こうして運命を捻じ曲げたことも、ぐるりと回る円い十字架の一端なのかもしれないから。


 それでも、少なくとも今、こうして幸せでいられることに、感謝し続けようと、そう思った。


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