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衣食住って難しい

結局僕たちはカネカシ大学の、生理的に拒否したくなる汚れ具合の寮にやってきた。

親切にも花井部長はいくつかの不動産屋に付き合ってくれて部屋探しをしたのだけれども、未成年、不登校、無職、ついでに擬似同棲の少年少女は門前払いだった。

大学寮は基本学生専用なのだけれども、花井部長は『空き部屋の有効活用』の一点で僕らの入寮を大学側にねじ込んでくれた。学生と同じ寮費という訳にはいかなったけれども、それでも月五千円という信じられない安さだ。


「ヒロオくん、ユウリちゃんを守るんだよ」


花井部長の言葉は決して大げさではないと思った。長谷ハセちゃん以外の寮生は全員男子学生で、しかもセクハラ・パワハラを信条とする腐りきった輩ばかりなので、僕は戦場でユウリを守ったあのぐらいの殺気をもって対処するつもりだ。


長谷ハセちゃん、強力な仲間を連れてきたよ」

「あ。ヒロオくん、ユウリちゃん、どうしたの〜」


とりあえず地元での経緯を長谷ハセちゃんにも説明した。


「大変だったね〜。でもよかったね〜、2人がいい感じになって」

「あの、それはまあ置いといて。それより長谷ハセちゃん、どうしたんですか? 目の下にクマができてますよ」


僕がそう言うと彼女は目をこすりながらぼそぼそと愚痴をこぼし始めた。


「あのね〜。ゼミの課題の小説を『タイシとシナリ』で済ませようと思ってたんだけど、投稿してるの教授に見つかっちゃって。投稿とは別物で書きなさいって言われてね。それで書いてたんだ〜」

「大変ですね。どんなの書いてるんですか?」

「ユウリちゃんはこういうの好きかな? 小学校の時にいじめられてた女の子が女子だけのロックバンドをつくるっていう話なんだけどね」

「あ、やっぱりいじめが絡むんですね。タイトルは何ですか?」

「『あなたの道を走れ、廃車寸前のバンで』って言うんだ」


4人で雑談してるうちに僕らの食い扶持の話になった。

花井部長が鋭く切り込んでくる。


「で。2人は何かバイトするんでしょ?」

「はい。でも僕たちまだ働いたことないんですよね」

「まあ、この間中学出たばっかりみたいなもんだろうからね。うーん。あ、そうだ」

「何ですか?」

「ユウリちゃんは『チェリッシュ』で働いたらどう?」

「え? わたしメイドなんてガラじゃないですよ」

「そんなことないよー。この間はチェリッシュのメンバーにモテモテだったじゃない」

「花井部長、メイドさんにモテてもしょうがないですよ」

「あの、部長」

「なあに。長谷ハセちゃん」

「どうせならヒロオくんとユウリちゃんに、『タイシとシナリ』と同じバイトしてもらったらどうでしょう」

「ん? 小説の中じゃ2人は何やってたっけ?」

「タイシはコンビニへ、シナリは純喫茶へ」


まるで昔話のような物言いに全員微笑ましくなりながら、けれども花井部長がツッコんだ。


「喫茶店ならメイド喫茶でもいいじゃない」

「いえ。メイド喫茶じゃなくって、『純喫茶』です。これは譲れません」

長谷ハセちゃんの趣味だってだけじゃない。どう? ヒロオくん」

「まあ僕は無難にコンビニあたりかな、って最初から思ってましたんで。それよりユウリはどうなの」

「『純喫茶』って何なんですか? 何か響きがちょっと大人の世界っぽいですけど」

「ううん。全然そんなんじゃないよ〜。今時のカフェとかじゃなくって、昔ながらのコーヒーメインの喫茶店てことだよ」

「でも長谷ハセちゃん。コンビニはともかくこの近辺に純喫茶店なんてないでしょ」

「神田あたりまで足伸ばせば多分ありますよ〜」


そんな訳でなぜか4人で神田・神保町まで繰り出すことになった。


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