真正面の映画と音楽と小説と
拍手の中、僕たち出演者の紹介をしてくれたのはなんとバンドのギタリストだった。どうやら彼女がリーダーのようだ。
「わたしたちが主題曲、『行こうか』を捧げたその映画、『タイシとシナリ』の主人公タイシ役のヒロオ!」
やや音量を増した拍手に迎えられて僕はギタリストのマイクスタンドの横まで行き、お辞儀をした。
「もう1人の主人公シナリ役のユウリ!」
ユウリは僕の隣まで歩いてきて少し緊張した表情でお辞儀した。
「原作者の長谷ちゃん!」
長谷ちゃんは一切緊張もせずにステージに上がり、どーもどーもといった感じで愛想を振りまいている。
「最後に監督のカタヤマ!」
カタヤマさんは撮影中のストイックで誠実な状態から、女子の言うことはなんでもきくモードに戻っている。
観客席にいる神経質そうな自分のファンたちには目もくれず、バンドのメンバーを値踏みするような目つきでチラ見している。
ところがやはりカタヤマさんはどこまでも映画には真摯なようだ。上映に当たっての挨拶を始めると劇場全体がしん、として彼の言葉に聞き入った。
「映画のことは語りません。これから観ていただいて皆さんの評価にお任せする次第です。ただ、ここにいる主人公2人と原作者、それから主題曲の提供を快く引き受けてくれたバンドのことについては少し話させていただきます」
ぐるっ、と見渡してカタヤマさんは続けた。
「まず、このROCHAIKA-sex。プロですが、音楽だけに専念することが許されない境遇のメンバーばかりです。地元中小企業の社員、自営でミニFM局の経営、ご両親の介護、音大生、高校生、うつ病の闘病。それにも拘らず、いや、現実の中で悪戦苦闘するからこそリアルな曲を作り、驚くべきクオリティの演奏が実現できるのでしょう。断言します。このバンドは、全く新たなバンドのあり方を体現している」
ほおー、という反応は、この客層においては最上級の評価だろう。
「次に主人公の2人、ヒロオとユウリ。彼と彼女は戊辰の戦場でガットリング砲と対峙し、秋葉原のメイドカフェでアニメキャラの刺青を入れたマフィアとの銃撃戦をくぐり抜け、そして今は地元を追われて半同棲の境遇です。いわば普通の高校生としての生活をすべて手放さざるを得なかった。私はそういう2人の生き様から強烈なインスピレーションを得た」
今度は客は激しく頷きながらの拍手を僕らにくれた。
「最後に原作小説を書いた長谷。この小説はアクションものとも取れるけれども、根底にはいじめの問題提起がある。そして彼女はいじめを本気で根絶しようとしている」
長谷ちゃんがカタヤマさんの顔を今までにない真面目な表情で見つめる。
「本気で真正面からそういうことをやろうとする表現者は一歩間違えるとドン引きされる。でもこのバカな原作者はそれをこの小説で貫き通している。わたしの映画と同じだ」
あ。
僕は長谷ちゃんは何があっても泣かない女子だろうと思ってたけど。
違ったようだ。
カタヤマさんがお辞儀をした。
「どうぞみなさん、ごゆっくり最後までお楽しみください」




