開演
僕たちはスクリーンのステージ袖で待機する。
徐々に劇場が暗転していく。
完全に闇になると、スクリーンにモノクロームのポピーの花が映し出され、その下にテロップが流れる。
『一曲目は、INXSの
What you need.
オーストラリアのバンドで、ヴォーカルは若くして自殺しました。
音楽の残酷さとは、作る人間の一瞬の煌めきを搾り尽くすこと。ヴェートーベンの永遠不朽の名曲も彼の苦悩の人生の対価として作り上げられたものでしょう。
でも、わたしたちは、INXSのこの曲が大好きです。
演奏・ROCHAIKA-sex《ロチャイカ-セックス》』
暗闇のままギターの歪んだ音が二音響く。
スネアドラムの音と同時にステージが、カッ、と照明全開となり生ベースとシンセベースがシンクロして曲のイントロが始まった。ベースラインに呼応するように唸るギターリフ。
ギタリストは細身の女の子だ。
そのギターに答えるようにサックスが乾いた音を出す。眉間にしわを寄せてパワフルな波動を伝える。彼女も、女子だ。
7人全員、女子。
5人はTシャツにブルージーンかブラックジーンのラフないでたち。ただ、タイトなドラムを叩く長身の女子はなぜか部屋着のような上下スゥエット。あと、シンセベースを弾くキーボードの女子はアフロで星型のサングラスをかけている。そのキーボードの子がスネアドラムにクラッシュ音を被せているらしい。マニピュレーションも担当しているようだ。
ドラム以外にパーカッションの女の子もいる。小柄で、この曲では抑えた演奏をしているけれども、瞬間の打撃音の大きさで相当なテクニックを持っていることが感じ取れた。
とはいえ。
「ユウリ、この曲って知ってる?」
「ううん、知らない」
「このバンドは?」
「知らない」
オーストラリアのバンドが作ったこの曲と目の前で演奏している女子だけのロックバンドとが有名なのかどうかは分からない。
そういう判断ができないぐらいに僕とユウリは音楽に造詣がない。
それにしても異様な光景だ。
音楽に詳しくない僕でもこの演奏が相当にレベルが高いことは分かった。何よりヴォーカルの女の子が英語で全身全霊を吐き出すように歌う声が馬鹿でかく、頭から鷲掴みにされるような心地がした。
にもかかわらず、暗がりの観客席をみてみると、みんな静まり返って聴いている。
足組し、うんうん、と頷く人や、頬杖をして目を閉じ、軽く足でリズムを刻む人。
マニアックな現代クラシックかジャズでも聴くような雰囲気の客の反応だ。
曲のエンディングはヴォーカルのシャウトとギターの残響音で締まった。
割れんばかりの拍手が起こった。




