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試写会はオールナイト

オカモ先輩が選んだ試写会場はいわゆるミニシアター。池袋の東口を出て少し人気のない場所まで歩くとロードバイクショップの向かい側に建っている。『フォルテ』という映画館だ。


スクリーンは1つしかないけれども、オカモ先輩は金曜夜のオールナイト枠で押さえた。


何かのつてでもあったのだろうか。僕はオカモ先輩に訊いた。


「オカモ先輩、使用料は?」

「あ? そんなもんチケットの売り上げで払う」

「え。だって、試写会ですよね? お金取るんですか? しかも、どれだけお客が来るかもわからないのに?」

「300席全部埋まる。3千円にしたから90万の上がりだ。その内の5%、4万5千円でいいってオーナーは言ってくれてる」

「そんな。無理でしょ」

「まあ、上映のみなら2千円と思ったが、バンドを呼ぶからな」

「バンド?」

「ああ。主題曲を頼んだバンドだ」

「え? え? 主題曲?」

「ああ。3話の上映の間にライブを挟む。『ROCHAIKA-sex』っていう女子だけのロックバンドだ」


・・・・・・・・・・・


金曜の夜。


通常上映が終了し、『タイシとシナリ』のオールナイト上映が開始される時間になると、フォルテのロビーは紫煙しえんで充満した。溢れかえった入場者はスクリーンの外側の細いロビーに設置された灰皿にたむろしてタバコを吸って上映とライブまでの時間つぶしをする。喫煙率は8割超えだろう。


一応僕たちも出演者として舞台挨拶に立つことになっている。準備の合間にタバコを吸っているスーツ姿のサラリーマンに訊いてみた。


「あの。この映画館ってよく来られるんですか?」

「私? いや、初めてだよ」

「あ。じゃあ、たまたまですか今日は」

「いやいや。何言ってんの? 今日の映画ってカネカシ大学の映研が作ったんでしょ? それ目当てに来たんだよ」

「え。そんなに有名なんですか。カネカシ大の映研って」

「なんだ、あなた知らずに来たの? ものすごく偏執狂的な映画を作るんで私みたいな偏屈な映画マニアにはたまらないんだよ」

「はあ」


ユウリが僕に情報を補足してくれた。


「ヒロオ。どうもカネカシ大学の映研はアングラな映画フリークスの間で伝統的に有名みたい。特にオカモ先輩とカタヤマさんは過去最高のコンビって言われてるみたいだよ」

「へえー? あのオカモ先輩とカタヤマさんが?」

「カネカシ大学って実はすごいんじゃないかな」


2人でタバコの煙に巻かれていると僕らを呼ぶ声がした。


「お〜い〜。ヒロオくん、ユウリちゃん〜。オカモ先輩が、そろそろ出番だって〜」


長谷ハセちゃんに促され、僕とユウリはほぼ普段着に近い格好のまま、スクリーン前のステージに向かった。

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