凶悪な寝息の少女
ユウリとセヨを畳に布団を敷いて寝かせ、僕は押入れで足を折り曲げて寝転んだ。
セヨの寝息がすごい。
いびきでは決してないのだけれども、
『ふしゅー』
という感じの寝息を立てていてどうにも気になって寝付けない。
「ヒロオ、もう寝た?」
「いや。うるさくて眠れない」
「だよね。いびきの方がまだ諦めがついていいかもしれない」
「とことんカンに触る奴だなあ」
「でもセヨちゃんを都会のど真ん中に放り出すわけにもいかないし」
「明日、どうする?」
「うーん。とりあえず広島の親御さんに連絡させた方がいいよね」
「素直に電話するかなあ」
「ヒロオ、そこんところは男子の威厳を持ってセヨちゃんを説得してよ」
「威厳、て。メイド服着せられて威厳も何もないよ」
「ふふっ。ほんとに似合ってたよ」
「こら! しみったれ夫婦」
「なんだセヨ。起きてたのかよ」
「人がせっかく気持ちよく眠ってるのにいちゃつきやがって」
「セヨの寝息のせいで眠れないんだよ」
「お? ウチの寝息がそんなにセクシーか?」
「色気のかけらもないよ」
「なあ、ヒロオもユウリもやることやってんだろ?」
「・・・何もやってないよ」
「嘘つけ。ウチを中2だと思ってはぐらかすなよ」
「セヨちゃん、ほんとにそういうことはないんだよ」
「・・・ほんとに?」
「うん」
「どっちかが病気だとか?」
「いや。いたって健康な男女」
「セヨちゃん。別にそういうことがないっていうのもありなんだよ」
「ないのがありってよくわかんないけど・・・じゃあ、ウチがいても問題ないってことだな」
「ええ?」
「この部屋快適だからしばらく滞在させてもらうぞ」
「・・・広島に帰れよ」
「そうだよ。ご両親が心配してるよ。テストで悪い点取ったからっていつまでも怒ってないよ」
「いいや。我が家では勉強がなによりも重要視される。ツクンコマ高校に入れなかったら勘当されてしまう」
「え⁉︎ ツクンコマ高校ってあの偏差値80の?」
「うん」
「それにツクンコマって東京でしょ? いずれ東京に出てくるつもりだったの?」
「うん。だからさっきラインで反省と気合を入れがてらツクンコマを下見してきます、って親に入れといた。宿も確保したから心配するな、って付け加えて。いやー、助かるよ、ユウリ、ヒロオ」
「ツクンコマ目指す奴がこんなアホなことやってネカフェやらメイド喫茶で油売ってんのか」
「いや、わたし自身の本当の目的は傷心を癒すためミツキ様に会いに来て広島に連れて帰ることだったからな。それをみんなで邪魔しやがって。なんだ、あの長谷ちゃんてのは」
「はあ・・・ヒロオ。ミツキさんに説得してもらうしかないかもね」




