家出娘の横暴さ
とにかく走りまくって気が付くと寮に戻っていた。
意外なことに飢えた寮生たちは僕のメイド服に反応する。
「ええと。俺の部屋で休まん?」
僕は強制装着させられていたカチューシャを剥ぎ取り、オーバーニーも脱ぎ捨てた。
「『休まん?』て何をしようっていうんですか?」
「げ! ヒロオ!」
「それに、こっちはユウリちゃんじゃない。それから、えーと、この子供は・・・」
「誰が子供だ! ウチは中学生だ!」
セヨがオカモ先輩の脛にローキックを入れた。
「痛って! こら、ヒロオ、教育がなってないぞ!」
「僕はこいつを更生させる自信なんてありません。セヨ、さっさと広島に帰れ」
「お腹すいた」
「はあ? 甘えるなよ」
「とりあえず何か食べさせて。食べたら帰る」
「あーもう。しょうがないな」
どちらにしても僕とユウリも晩御飯を食べないといけない。部屋のみすぼらしさの割にはガスが2つ使える水場でユウリとで僕が肩を並べて調理する。
「おー。夫婦みたいだねー」
「セヨちゃんも手伝いなよ」
「ユウリ、こんな奴にちゃん付けする必要ないよ」
「いやいや。ユウリはわかってるねー、ウチの正しい扱い方を」
「・・・調子に乗りすぎないでね」
そう言ってユウリは一品目をちゃぶ台にどん、と置いた。
「・・・なにこれ」
「ひじきと麩と油揚げの煮物」
「貧乏くさ!」
「いやなら食べなくていーよ。ヒロオとわたしだけで食べるから」
「いやいや、食べますよ。食べますとも」
そう言ってセヨはご飯と味噌汁もまだつけていないのに、おかずをものすごい勢いで食べ始めた。
「うーん、うまい。けど、ビンボくさい」
「うるさい。量が増える食材使って節約してるんだよ」
「へえ。ますますしみったれた夫婦みたい」
「やかましい。っていうかそんなにがっついて、よっぽど腹減ってたんだな」
「東京着いてから何も食べてなかったからな」
「ほんとか? いつ東京に着いたんだよ」
「一昨日」
「ええ?」
「んで、着いた日はネカフェでオールしてさ。いやー、楽しかったなー」
「昨夜は?」
「ファミレスで一晩粘った」
「何か食べればよかったのに」
「電車賃とあとちょっとしかないから、飲み物しか無理」
「はあ・・・しょうがないな」
と言って僕はユウリとアイコンタクトで意思疎通した。ユウリから切り出した。
「セヨちゃん。今夜泊まる?」
「え? いいの? でも、お邪魔じゃ・・・っていうかヒロオ!」
「な、なんだよ」
「お前、ウチも狙ってるだろ」
「そんなこと言ってたら先輩たちの部屋に泊まらせるぞ‼︎」
僕がそう怒鳴ると、全室から、
『要らんぞー‼︎』
と、声が上がった。




