ツイートする外国の人
膠着状態というか人生の浪費にしかならないようなこの時間を取りまとめてくれたのはこともあろうにまたまた長谷ちゃんだった。
「セヨ〜。なんなら電話でわたしが代わりにご両親に謝ってあげるよ〜」
「何訳わかんないこと言ってんだ。大体お前は何なんだ」
「わたし〜? 大学の文芸部だよ〜」
「文学部でしょ、長谷ちゃん」
ユウリがすかさずツッコむ。けれども長谷ちゃんはペースを変えない」
「どっちでもいいよ〜。ねえ、セヨ。早くしないと捕まっちゃうよ〜」
「うるさい。さっき店長には絶対に警察に連絡するなって言っておいたから大丈夫なんだよ」
「ほんとに中学生か? 店長はとっくに警察に連絡してるよ。ほら、ようやく来た」
やる気がなさそうなパトカーのサイレンが遠くで聞こえる。
「くそっ、あいつ裏切りやがって」
「ねえ、セヨ〜。早く行きなよ。ねえ、ミツキさん、たこ焼き機ってないですか〜?」
「ありますわよ。お店でいつも焼くのはたこ焼きじゃなくってホットケーキミックスのデザートですけど」
「じゃあ、わたしが用意周到にたこやきひっくり返すやつ持参でミツキさんの所に遊びに来たってことにしとくから、みんな逃げて〜」
「ミツキ様・・・」
「セヨ様、落ち着いたらもう一度お店にいらしてください。一緒にたこ焼きを焼きましょう」
「ほら、行くぞ!」
僕は腹立たしさをエネルギーにして外付けの階段を駆け下りた。ユウリもいつになくイライラした様子だ。きびきび走れという空気をセヨにぶつけている。
ばっ、と階段を駆け下りるとパトカーは一台しかいない。店長が状況を説明しているようだけれども、どうやらチェリッシュは警察から守られるべき市民とは認識されていなようだ。
ザルのような『包囲網』を堂々と僕ら3人は走り抜けた。
「ユウリ、あの人なんでスマホで僕らを撮影してるんだろ?」
「ヒロオとわたしがメイド服着てるからでしょ?」
そうだった。なんだか長谷ちゃんのほわほわ攻撃で麻痺してしまっていたけれども僕はとても恥ずかしい格好をしている。そして、僕らが走っているにもかかわらず強引に呼び止める外国人男性がいた。
「男子のコスプレも流行ってるんですか?」
という内容のことを英語で言われたらしい。英語で呼び止められるとなぜだか会話をしないといけないような気分になってついつい立ち止まってしまった。
「いえ、はやってません」
「じゃあ、あなたのごく個人的な趣味ですか?」
「いえ。強制です」
Oh、と彼は突然オーバーアクションになる。
「では、あなたは本物のメイドなのですね?」
言いたいことの意味がわからないので、
Yes、とだけ答えてえ走り去った。
振り返ると彼はスマホをぽちぽちしていた。
「ヒロオ、あの人多分ツイートしてるよ」
なんのネットワークか知らないけれども僕は走る先々で外国の人に声をかけられた。みんな一様に『本物のメイド』というような英単語を僕に投げかけてくる。
まともな男子はユウリを振り返っているけれども、さっきの外国人男性のツイッターのネットワークらしき人たちは僕をとり囲もうとする。
「いいな。ヒロオばっかり目立って」
「じゃあ、最初からこんなもん着せるなよ!」
僕は思わずセヨに怒鳴っていた。
その頃、チェリッシュの店内では、長谷ちゃんとミツキさんがたこ焼きを焼きながら警官をあしらっていた。
「なんでたこ焼き焼いてるんだ」
「おまわりさん、これはたこ焼きじゃないよ〜。だって具はイカだもん〜」
「長谷ちゃんさん、すみませんんね。安いので冷蔵庫のストックは全部イカなんですわ」




