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ストーキング・ベイベー

「あれ? なんだろ?」


チェリッシュとmarusanが入っているビルの前に大勢人が集まって上を見上げている。


「あれ? 店長? どうしたんですか」

「ミツキちゃんのストーカーが彼女を人質にして店に立てこもったんだよ」


まったく・・・ごく普通に営業するというのはそんなに難しいことなんだろうか。揉め事が起きる頻度が高すぎる。


「警察は?」

「10分経ったけどまだ来ない。マフィアの一件を根に持ってるのかも」

「うーん。じゃ、僕が行きますよ」

「あ、ヒロオ、わたしも行く」

「ヒロオくん、ユウリちゃん、わたしも行くよ〜」

長谷ハセちゃん、いいですよ。僕とユウリとで行きますから」

「えーとね。なんか、今日はわたし役に立つような気がするんだ〜。だから連れてった方が後悔しないと思うよ」

「・・・わかりました。一緒に行きましょう」


店長の視認情報だとストーカーが持っている凶器は千枚通しらしい。まあ、ありがちな選択だ。それで、痩せていて小柄。ミツキさんよりもかなり背が低いらしい。


僕とユウリと長谷ハセちゃんは階段で2階に登り、店の入り口から中をチラチラと覗いた。先に僕たちに気づいたのはミツキさんだった。


「あら、ヒロオさん。ユウリさんに長谷ハセちゃんさんも。どうぞ、こちらへおいでなさいませ」


なんだか長閑な応対だ。ミツキさんは中学生ぐらいの女の子とテーブルに向かい合って座っている。


「あれ? ストーカーは?」

「こちら、ストーカーさんです」


僕が訊くとミツキさんは目の前の少女をそう紹介した。


確かにミツキさんよりもかなり背が低い。

それによく見るとテーブルに置いた彼女の手に千枚通しらしきものが握られている。


店長は、わざと『ストーカーは少女だ』という情報を伝えなかったのだろうか。

それとも、僕らが知らない何か重篤な疾病のせいで短期的な記憶すら飛んでしまうのだろうか。


「まあ、みんなでお茶でもいただきましょう。それともコーヒーがいいですか、ヒロオさん」


ミツキさんが給仕に立とうとするとストーカーが凶器をかざして制した。


「あなたは何もしなくていい。そこの女にやらせればいい」


ユウリと長谷ハセちゃんが顔を見合わせる。


「じゃ、わたしが」


長幼の序を重んじるユウリが席を立とうとすると、ストーカーが更に注文をつけた。


「ついでだ。お前らもメイド服に着替えろ」

「ええ?」

「嫌とは言わせないぞ。それから、逃げたら・・・」


もう一度凶器をかざす。


ユウリと長谷ハセちゃんは更衣室に入っていった。心なしか、長谷ハセちゃんはなんだか嬉しそうな・・・


とにかくも僕はストーカーと対話を試みる。


「ストーカー」

「・・・セヨ、だ」

「じゃあ、セヨ。逃げたりしないからその千枚通し仕舞いなよ」

「これは千枚通しじゃない」

「え」

「たこ焼きをひっくり返すやつだ」


ああ、確かに。

確かにたこ焼き屋はこんな道具持ってて、たこ焼きをつつきながらひっくり返してる。

正式名称なんかないんじゃないか。

もしこれでミツキさんが殺されたとしたら、

『秋葉原のメイドがたこ焼きをひっくり返す道具で刺され、病院に運ばれましたが間も無く死亡が確認されました』


なんて感じになってしまうじゃないか。

センスのかけらもないヤツだ。


「おい、お前も何くつろいでるんだ。早く行けよ」

「え」

「お前もメイド服着るんだよ」


やっぱり、逃げようかな。



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