リツイートといいねをねだる少女がひとり
「知ってるー!」
思いがけずギャラリーの中から女子高生が声を上げた。
「ヒロオくんとユウリちゃんだよね? 私、ずっと動画観てたんだ。 ミツキさんは元気ー?」
元気、元気、と僕とユウリとで声を揃えた。長谷ちゃんがナレーションを再開する。
「そうです〜。この2人は秋葉原のメイド喫茶『チェリッシュ』で繰り広げられた銃撃戦をくぐり抜けてきた勇者なんです〜。みんな、拍手〜」
よく分からずに拍手してくれる人も相当いるようだけれども、パチパチと盛大にやってくれた。拍手につられて更に立ち止まる人たちがおり、ギャラリーが増える。
「それでね〜、この2人は武士と一緒に戦場でガットリング砲っていう機銃を破壊したこともあるんだよー。信じる〜?」
失笑する人、ヒューッと言う人、様々だけれども、さっきの女子高生たちが、『信じる信じる』、と、雰囲気を盛り上げてくれた。
「それでね〜、わたしの書いた小説はこの2人がモデルなんだ〜。ツイッターやってる人〜」
ほとんどの人が手を挙げた。
「じゃあ、『タイシとシナリ』って検索してみて〜。タイシもシナリもカタカナだよ〜」
みんなスマホを操作する。長谷ちゃんはみんなの作業を待つ。間の取り方が絶妙だ。みんな検索して、小説のリンクが貼られた長谷ちゃんのツイートを見ている。
「それがわたしの小説です〜。もしよかったら読んでね〜。それでよかったらリツイートとかいいねとかしてくださいね〜。じゃあ、またね〜」
言うだけ言うと長谷ちゃんは僕らに、さ、行こ、と促す。
「もう行っちゃうのー」
「うん〜。次のプロモーション先行くんだ〜。じゃあね〜」
僕たちは来た時と同じように、たたた、と駆けてその場を後にした。
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池袋、巣鴨、大塚、茗荷谷、駒込、白山、後楽園、王子、日暮里、上野、東京、神保町、九段下、神田、水道橋、御茶ノ水。
僕たち3人はこの日、都内を駆けずり回って『プロモーション』をやった。場所によっては冷え切った反応しか返ってこなかったり、警察に通報されそうになったりもした。
なんと長谷ちゃんがナンパされそうになったりもした。
「うわ〜、見て見て〜」
長谷ちゃんが僕とユウリにスマホの画面を見せる。
信じれられない数のリツイートといいねがあった。
そして、小説投稿サイトのアクセス数も朝七時の時点のグラフが線にしか見えないぐらいの膨大な数になっている。
「やったね、長谷ちゃん!」
ユウリと長谷ちゃんがハイタッチする。
僕は不思議な達成感でくつろいだ姿勢をとる。
多分、タバコを一服吸いたくなるのはこんな心境の時なんだろう。
「ヒロオ、まだ最後が残ってるよ。もうちょっと頑張って」
「え? どこ?」
ユウリと長谷ちゃんが声を揃える。
「秋葉原、『チェリッシュ』だよっ!」




