流浪するふたり
「自主退学を勧告します」
「え」
僕とユウリは学年主任の六太先生から告げられ、唖然とした。
「あの。理由はなんでしょうか」
控えめにユウリが訊く。
「犯罪行為の現場に居合わせたことです」
「あの。お言葉ですが、わたしたちはどちらかというと事件の解決に協力したと思っているんですが」
「ヒロオくんは警官の妨害をしたそうじゃないですか」
「それは・・・」
事実ではある。ただ、間違ったことをしたとは思っていない。けれどもユウリの反論に対して六太先生はこう続けた。
「ネット上であなたたちがうちの生徒であるということもすべて開示されてしまっています。また、生徒の処分をきちんとしない学校ではないかということで非難のコメントが多数寄せられているようです」
「ネットの書き込みなんかで退学させるんですか」
僕の不満に、六太先生は平然とこう言い放った。
「人聞きが悪い。強制退学ではありません。自主退学をお勧めしているんです」
「どうする、ヒロオ?」
「どうするもなにも、一応親には相談しなきゃいけないだろうね」
「あーあ。『タイシとシナリ』みたいだなあ」
「あの2人は『自主休学』でしょ? ぼくらの方がもっとひどいよ」
長谷ちゃんのネット小説、『タイシとシナリ』の投稿は順調に進んでいる。主人公の2人は高校を1年間休学して『敵』との戦いに入るという設定だ。
「あれ? 高校をやめるってことは・・・」
「なに、ユウリ」
「わたし女子高生じゃなくなっちゃうじゃん!」
まあ、JK というブランドを手放すことにはなるよね、ユウリ。
僕もユウリも、1人でそれぞれの親に説明する勇気はなかったので、まずは僕がユウリの家に行き、そこに僕の両親も呼び出した。
「この際、ユウリとヒロオちゃんが結婚を前提に付き合ったらどうかしら」
「はあ?」
ユウリのお母さんの頓狂な発言に、僕とユウリは同時に声を出した。
「そうだな。2人とも次男次女で跡取りでもないし。高校中退して自活してもらうってことで」
「ちょちょ、待ってよ!」
僕の父親もユウリのお母さんに同調してとんでもない発言をする。
「なんだヒロオ。何か不満か」
「いや、父さん。そりゃあ事件に巻き込まれちゃった僕らも悪いし申し訳ないと思ってるけどさ、話が飛躍しすぎじゃない?」
「ヒロオ、はっきり言っとくがなあ、私の会社でもお前のネット記事が知れ渡ってて部下にも示しがつかんのだ。もうお前とは無関係ということにしたい」
「母さん」
「ごめんなさいねヒロオ。悪いけどこれ以上経済的な基盤に傷をつけるわけにはいかないのよ。お兄ちゃんの大学卒業までまだ3年もあるし」
「ユウリ」
「は、はい」
「うちも同じだ。すまんがヒロオくんと2人でこの家を出て、自分たちだけで生活していってくれ」
僕とユウリはただただ2人でうなだれていた。けれども、取り付く島はもはやないようだ。腹を決めるしかない。そしてそれを言うなら男である僕の方だと自負した。
「わかったよ。じゃあ明日に出ていくよ」
「いや。今晩だ」
「・・・」
僕とユウリは当座のお金だけは出してやるということでそれぞれ五万円をもらい、すっかり暗くなった街へと出た。
「とりあえず泊まる場所確保しないと」
僕がいう前にユウリはもうスマホで検索してた。
「うん。えっと・・・あ、駅裏のビジネスホテルが金曜特割で安くなってるよ、ヒロオ」
「ふうん。じゃ、そこにしよっか」
「じゃあ、ツイン一部屋予約、・・・っと」
「え? ツイン?」
「うん。シングル2部屋だと2千円も高いから。何かまずい?」
「いやでも。僕は男だよ」
「うん」
「ユウリは女の子だよね」
「なに当たり前のこと言ってるの」
「まずくない?」
「え。だって、結婚を前提に付き合ったら、ってわたしのお母さん言ってたじゃない」
「ユウリ。それ本気にしてるのか?」
「うん。落ちぶれた2人が結びつくのって小説とかでも自然な流れじゃない」
「ユウリ、あのさあ・・・」
「わたしと一緒にいるの、嫌?」
「一緒にいるのが嫌とかそういうことじゃなくって・・・」
「じゃ、いいじゃん」
いいのかなあ・・・






