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憎らしい朝の陽射しがある。

作者: kisk

 憎らしい朝の陽射しがある。

 昨日讃えていた美しい暁光は、

 艶ある重々しい水面がのたうち、

 有毒に煌く砂粒が擾乱する、

 坑道の奥から流れ出した、

 劣悪鉱山の麓の湖、

 猛毒を呑み込んだ汚水、

 腐り行き、白い腹を晒した鱒、鮒、鰙

 その死骸一面覆い尽くすが如きもの。

 それは輝かしい始まりにあらず。

 破滅の始まり。

 土を穿り返す白昼夢は、

 墓を暴き、屍体の凌辱に明け暮れる予感。

 何も誇らしいものはない。

 有毒な光は存在した。

 光輝が喜びとなる時代は去った。

 あの薄明の暖色は、

 冷酷で、陰惨で、悪辣で、寒色であったのだ。

 四方に迸る鋭い光芒は、

 かの汚水を一面に吐き出していた。

 黒々とした水面が地上を覆い尽くし、

 なおもその上に覆い被さるように、

 黒い光沢のある水が押し寄せていた。

 その光は邪悪であった。

 太陽は暗黒の流出点であった。

 朝とは、不潔な煤煙と、

 地中から穿り出された汚物と、

 腐臭を放つ川底の草木と、

 その他諸々の、

 全ての汚らわしい物を全身に纏った、

 汚らわしさの権化なのである。

 その臭いは遠方まで届き、

 鼻つまみ者、

 肥溜め、

 恥垢の塊。

 朝の不浄さに比肩するものはない。

 それは、倒木と瓦礫を巻き込んだ濁流。

 掻き回された鈍器が地上を打ちのめし、

 破壊し、蹂躙し、踏み拉く。

 流れた血は黒々とした液に身を失す。

 かく鳴り渡るは黄金の殺戮歌。

 打ち消された叫びは虚しく水底へ。

 潰された肉から昇る油脂が水面に浮かび、

 差し伸べられる無数の舌が何度も嘗め嗜む。

 揺れ動く油の色と尿の臭い。

 大便が泥となって陸を為す。

 そこに累々と積み重なった死体の山。

 黒い波が運んでは捨て置いた。

 死肉を潰し、木枠に塗り付け壁を為し、

 砕き抜かれた骨は、壁に塗り付ける白亜だ。

 その囲われし内側で、多勢の群衆が叫び狂う。

 激昂誘う緋色のカーペットの上、

 円状のきざはしに所狭しと立ち並び、

 拳を上げて筆舌尽くしたシュプヒレコール。

 朝の憎しみに、間断付け入る隙は無い。

 光を退けよ。

 地平の最果てまで、

 その悍ましい裾野を及ぼすのを止めよ。

 遍く我々を支配するのを、

 その光で沈黙を暴き出すのを、

 鋭い槍で死体の腹を突き破り、

 穏やかな眠りから目覚めさせるのを、

 止めよ。

 悲劇を復活させ、死者たちは再び悪夢と対面した。

 夥しい絶叫、悲嘆、切り裂かれた腹の痛みは耐えかねる

 溢れた内蔵を掴み、激痛と怒りに任せて手の内で潰す。

 悲痛な絶叫は倍加する。

 闇に埋もれた、冷たい土に身を休めた彼等を、

 地上に引きずり出し、

 狂気に満ちた温もりを当てつけた、

 その罪の底深さ。

 彼等を再び、三度殺すための復活劇。

 無限の処刑を与える朝は、

 死者の両目を黒い波で覆い尽くした。

 悲しみに閉じ籠る殻の外から、

 幾度となく繰り返される暴力。

 悲しみのあまり、既に彼等の喉は嗄れ、

 舌は真っ赤な血に染まっている。

 だのに何故、朝は尚も彼等に叫びを強いるのか。

 比喩さえもが彼等を殺す。

 彼等の叫び声は、猛火に焼かれた人間と同じ。

 朝よ、その光を収めよ。

 身動き一つせぬ死体の山から、

 沈黙から聞こえてくる叫びを、

 夜のしじまに返すのだ。

 何よりも暗い帳の下に、

 金切声さえ吸い込まれる、深い闇の中に。

 その破壊を、

 毒々しい光を収めよ。

 しかし、朝は全く聴く耳を持たない。

 太陽は昇り、瘴気は尚も充ち広がる。

 あらゆる被造物の表面が、邪悪な色に変わった。

 そして私の顔も。

 何もかもを汚す、憎らしい朝の陽射しがあった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] いい殺意。 [一言] わあ、金子光晴みたいで、すき! なんだっけ鮫とか落下傘とか、そこらあたりの時に似てる!
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