8話 忠告
学人は人間関係は怠惰
「あっ、いいですよ」
あっさり。
やけにあっさりと了承された。
今関わっている事件の関係で協力をしてもらいたい。
かつて君――伊藤静姫が巻き込まれた誘拐事件に関係ある様なのだが……。
そう切り出すのに勇気が言った。
それなのに――。
(それなのに!!)
「先輩……あっさり許されましたね」
捜査課の後輩が恐る恐る訪ねてくる。
「そうだな……」
俺らの気づかいは何だったんだ……。
誘拐事件。
かつて似たような事件があり、その事件はなぜか捜査打ち切りになった。
その事件で誘拐された少女の名前は伊藤静姫。
きっと彼女の協力を得れば事件の鍵を握れると思って――だが、捜査は打ち切りになった事実もあるし、事件など忘れたいあろう。
そう思って慎重に話を進めたのに。
(その巻き込まれた当人が気にしてないというのはどういう事だ!!)
………いや、そうじゃないのかもしれない。
彼女は一応……そう胡散臭い謎の集団の一人だが、警察だ。
私を押し殺して、公人として、捜査協力はしてくれるだけだ。
そう言う事にしておこう……。
異能課にそんな気持ちがあるとは思えないが……。
「それにしても」
「うん?」
「異能課って………言っちゃなんだけど、魔窟というイメージがあるんですよね」
後輩はどこか挙動不審でびくびくして言ってくる。
「――魔窟などどこも一緒だろう」
そう。人の暗部を開いて、犯罪者を追い詰める。そこが魔窟じゃなくて何だというんだ。
「ですけど~」
情けない奴だ。
あいつらはただの子供から脱皮しただけの存在だ。その怯え方は化け物相手にしているようなものだぞ。
ついそう告げると。
「――化け物でしょう。人に出来ない事が出来るんだから」
「……………」
反論は出来なかった。
どこからともなく消える存在。
機械を操る能力。
そして――。
本当かどうか分からない精霊とか樹と会話するという事を平気にしているんだ。
――人外だと。化け物だと言われてもおかしいくないが。
(子供だろう)
ただの。
それくらいで怯えるんじゃないと叱り付けたかった。
はぁ~
でも仕方ないか。
「そこにスカウトされてるんだぞ俺は……」
「あっ⁉ そうでしたっ!! って、先輩を化け物と言っているわけではっ…」
「慌てるなよ。ますます俺を化け物呼ばわりしてるんじゃないかと疑いたくなるだろう」
「そ、そうでした!! すみません」
慌てて頭を下げる――どうでもいいが90度で頭を下げるなんてやり過ぎだと思うぞ――謝って、もうこの話はお仕舞いにしたいのか魔窟から逃げたいのか、
「じゃっ、じゃあ、捜査協力を得られたと言ってきますね」
と走って行ってしまう。
「どうせ行くのは同じとこだろう……」
何で一人で行くんだ。あいつ。
「――おい」
と思ったら、声を掛けられる。
「近藤……?」
学人の方だ。
こいつの姿を見つけたから逃げたのかもしれないなと悟ってしまう。
後輩曰く魔窟の住民。
機械にしか思えない謎だらけの青年。
「――お前が声掛けてくるとは意外だな」
自分から声を掛けてこない。――こちらが聞かないと口を開かないイメージだったが。
「静姫の事だから」
口を開くのも億劫だとばかりに。それでも言わないといけないというようにこちらを見る。
「ああ。――捜査協力の事か?」
居なかったはずなのに何で知っているんだ。
ふと疑問に抱くが、いやこいつなら知ろうと思えばすぐに分かるかと悟る。
「で、何だ?」
そう言えば……例の事件の報告書。こいつの名前が記入されていた。こいつにも協力を仰がないといけないな。
「静姫の笑顔に騙されるな。――嘘つきだからな」
嘘つき。
「――この捜査協力を言わなかった方が良かったか」
「………本来なら異能課に回ってくる内容だと思うからな」
お前が居るから口出しだけで終わらせるけどな。
「資料が欲しかったら近藤さんに言え。――捜査打ち切りにならない程度に気を付けろ」
捜査打ち切り……。
不自然に捜査は打ち切られていたな。そう言えば。
「もっ……」
もしかして上層部が関わっているのか?
聞こうと思ったが口をつぐむ。
言うのは危険な内容だと判断したのだ。
「……………」
用件は済んだとばかりに学人は去っていく。
相変わらず言葉が足りない奴だなと後姿を見つつ。
「――忠告ありがとうな」
聞こえないだろうけどそう告げた。
男くらいの近藤(噂)
サイボーグ学人(噂)
女王様むつが(噂)
実は目が見えてる説優慈郎(噂)
自称凡人静姫(笑)
そりゃ、魔窟と言われてもおかしくないね