7話 ある少女の独白
明けましておめでとうございます。
闇があった――。
そこは牢獄だった。
逃げようと思えば逃げれたかもしれない。
逃げる力を得てはいた。
でも、逃げなかった。
人質が居たのだ――。
「木綿歌………」
父が死んだ。
母が死んだ。
『――可哀想に』
父の会社の同僚と名乗った男が妹の居ない時に話をした。
父の同僚。そう名乗ったが面識はなかった。
だから警戒はしていた。
だけど、ただが、女子高生の警戒など彼らにはただ羽虫が飛んでいるだけの代物だった。
一瞬で、身体が拘束されて、気を失った。
目が覚めたら知らない場所に連れてこられていた。
『お前の両親は組織の意思に従わなかったから死んだんだ』
『素直に聞いていれば子供が苦しまなかったのにな』
作業着を着た男達がその言葉とは裏腹ににやにやと笑っていた。
必死に抵抗した。
逃げようとした。
家には妹がいる。
両親が亡くなって、葬式の後の諸々の手続きも済んでいない。
一人出させるわけにはいかない。
それに――。
自分がいない間。あの子はどうしてるだろう。
心配してるだろうか?
寂しがっているか?
でも、帰れない。
『逃げてもいいんだぞ』
『お前という検体の妹だ。どんな結果が出るんだろうな……』
『女二人でどこまで逃げれるんだうなぁ』
にやにや
そう告げて奇妙な薬を飲ませる。
どんどん自分が壊れていく。
ある日突然腕が消えた。
でも、視えないだけ、感覚はある。
薬を飲ませた男達が興奮したように機材を見て騒いでる。
身体が融けていく。
空間に溶け込むように消えていく。
狭い所でも見えない様に逃げる事が可能になった。
――でも、あたしは逃げれない。
木綿歌の今の状態を見せられた。
あの子の持っているモノ。かばん。服、アクセサリー。それらがすべて爆発物だと教えられた。
火薬が仕込まれて、あたしが組織を裏切って逃げようとしたら爆発するようになっていると脅された。
『逃げてもいいんだぜ』
耳元でささやかれた。
『妹を殺したら逃げれるかもな』
出来るわけが――ない。
あたしの能力はどんどん高まる。
あたしに過度なストレスを与えるとアドレナリンが発生して、それが能力の効果を上昇させる。それが判明したら男達はストレスを与え続け、それで精神が崩壊しない程度に緩めた。
実験に成功したら、妹の今の状態を映像として見せられる。
元気な姿に安堵して、まだ組織に監視されているのに心を痛める。
ぎりぎりの均衡。
いつ壊れてもいいほど追い詰められているのに壊されないように調整される。それだけの価値があったから。
『精神をここまで追い詰めるとこんな結果か』
『じゃあ、肉体を追い詰めるとどうなるんだ?』
『ああ。それも面白そうだな。だけど、どうする危害を加えようとした途端こいつの事だ消えるんじゃないか?』
『そこは人質の使いどころだろう』
見捨てれば……。
悪魔のささやき。
見捨てれば、自由になれる――。
そうしたら、楽になれる――?
そう。
自分がただ楽になりたいから妹を――木綿歌を切り捨てようとするほど心が追い詰められていた――。
――聞こえるか?
その声が届くまで。
――ああ。聞こえたな。お前の妹から頼まれた。お前を探して、事件に巻き込まれてるなら助けて欲しいと
男達の死角。そこにあったモニター画面に一人の青年が映し出される。
――お前を助けに来た
青年ははっきりしっかりと告げた。
その時抱いたのは喜びと。
――妹を見捨てる寸前だった事の自分の罪だった。
うん。言うことはない。