4話 食わせ者からのスカウト
今度はラスボス(笑)
俺は今日も不機嫌だ。
「またかよ!!」
悪態をつくのも仕方ないだろう。
最近眉間の皺が外れないなと揶揄われるほどであるし。
「不機嫌そうだね~。大丈夫~?」
誰のせいだ!!
文句を言いたいが言えない。
何と言ってもあっちの方が立場が上なのだ。
近藤智和。
異能課の課長である。
何故か俺は。その異能課――魔窟の主とサシでお茶を飲んでいるのだ。
「君には散々迷惑かけているからね。一度きちんと話そうと思ってね」
あっ、ここのコーヒ-は美味しいから。
「…………」
知ってる。ここは俺の行きつけだ。
と言うか……。
(俺が先に来てたんだろう!!)
せっかくの安息の時間。くつろぎの空間が……。
~回想~
「ああ。神崎君奇遇だね~」
「なっ…⁉」
「ちょうどいいから相席にさせてもらおうかな~。もちろん奢るよ~」
~回想終了~
反論も出来なかった……。
「うちの子達が迷惑かけてごめんね~」
僕も気に掛けているけど、手が足りなくてね~。
へらへら~
そんな効果音が似合う感じで告げてくるのにイラッと来るのは仕方ないだろう。
「…………」
無言で居るのは相手にするのが面倒だからだ。
「でも、うちの子達なんだかんだ言って君の事は心を許しているみたいだよ」
「…………」
「あの子達も人を見る目が肥えていてね。信用できる人と出来ない人の区別はついてるんだよ」
「………」
何だその嬉しくない状態は!!
(い、いやっ!! 反応したら負けだ!! 無視だ。無視!!)
べらべらと一人しゃべってる近藤を無視して頼んでいたコーヒーが届いたのを確認して口に入れる。
……ああ。コーヒーが美味い。
「………君に異能課に来てもらいたい」
自分のコーヒーが来ると同時に近藤は告げる。
「……………断る」
何で俺に。それが本音だ。
「――簡単だよ。君なら信用できるとあの子達が判断した」
笑って告げられるが、笑顔が胡散臭い。
「子守などする気にならないな」
第一。
「警察に所属している事態奇妙な奴らばかりじゃないか。そんなのに関わっている気にならない」
警察と言うところだけは小さく告げると。
「――詳しい事情を知れば。逃げられないよ」
にっこり。
「……………………」
よく言う。
逃がす気ないし。こっちが突っ込むような言葉をあえて使っていたくせに。
「まあ、全容はまだ話せないけど」
この場所が場所だからか。言質を取ってからだと言いたいのか。
とんだたぬきだな。
「でも、来てもらいたいというのは本音。――あの子達に俺以外の味方が、常識を知っている味方が欲しいからね~」
「…………………伊藤が居るだろう」
伊藤静姫が脳裏に浮かぶ。
毎回他の面々のフォローをしているあいつに任せればいいんだろう。
「う~ん。静姫が一番に人を信じて無い部類だからね。無理じゃないかな」
「……………警戒心ゼロにしか見えないけどな」
どうでもいいが、いつまで俺に話しかけるんだ。無視すれば黙るか。
「――黙っとけと思っているだろう」
「………………」
無視だ。無視無視。
「どうして子供ばっかり集めたのかとか突っ込まなくていいのかい?」
「………………………………」
無視。
「僕がロリコンとかショタコンと言う可能性を考えないのかい?」
「だったら、その警戒心が高い子が信用するわけないだろ」
突っ込んでしまって、
(しまった――!!)
と思うが後の祭り。
「返答してくれたね」
にやり
「詰めが甘いよ」
「悪かったな!!」
「まあ、それがいいんだけどね。――君の事は調べたよ」
ぴくっ
「殺気の宿った視線を向けないでくれるかい?」
「――どこで知った?」
「まあ、僕はその手の事に強いからね。だから君をスカウトしたい」
「………………」
探るような視線を向ける。
「僕が出来る事は限られているし、あの子達にとって僕はすでに知っている存在だから警戒する必要もない。だからこそ気ままに居られるけど、現実はそうもいかないよね」
「…………何が言いたい?」
探るように視線を向ける。
「あの子達の信用できる存在を増やして、世界は広い事を教えてあげたいんだよ」
そう言ってくるが、
「――なんで俺に?」
向かないだろう。
「君はあの子達をバケモノと呼ばないだろう」
「バケモノ?」
ああ。あの妙な力か。
「それがいいんだ。あの子達の力を知っても恐れないで受け入れてくれる存在。それが欲しい」
「………………なんだそりゃ」
そんなもの普通だろう。
「………かつて妹を盾に取られて自分から人体実験になった女の子が居ました」
何言いだすんだ?
「………人工的に作られて兵器として教育された子供が外を知って組織を裏切りました」
「………………」
SFでよくある設定だ。
でも、ここで出すのは……。
「………それはまさか」
「――さあ、何だろうね」
くすりっ
「君の生き別れになった妹と弟。探せる力はあるよ」
僕と取引に応じないかい?
「………先にその例え話をしたのはなんでだ」
俺にとって重要な事。
火事によって生き別れた妹と弟を探す手掛かりで警察に着いた事を知っているならそれを使って交渉すればいいのに。
それに――。
「あんたなら、裏からそうやって持って行く事も出来たんじゃないのか」
俺を移動させるように上層部に話を持って行くなんて……。
「フェアじゃないからね」
まあ、そんな事は些細な事だけど。
「君の返事を待っているよ。神崎君」
と告げて、気障な仕草で――それが様になっているのが癪だ――二人分のコーヒーを払っていく。
「ふん」
勝手に相席になってグダグダ話されたから迷惑料と思ってもいいだろう。
そう決意してコーヒーを追加――今度は自分の金で飲むから美味いだろうな。いや、さっきまでのコーヒーが不味いと言う訳ではないく心証的なものでだ――注文する。と、
くすくす
店員は笑う。
「お客さん読まれてますね。さっきの方が『追加注文するからその分の払っておくね』とおっしゃってましたよ」
「………………」
訂正。
他人の金で飲むコーヒーは美味い。
そう美味いと思っていないとやってられない。
(くそっ!! がぶ飲みしたくてもそれじゃ飲み過ぎになるだけだ!!)
つくづく異能課は気に食わなかった。
近藤「やっぱ、いい男と飲むと美味しいコーヒーがますます美味しくなるね。(注:同性愛者です)」