21話 誕生
難産でした……
静姫は助けに来たという学人の言葉よりも妹に危害を加えるという脅しで攻撃をしていた。
そう、学人という存在が本当に信用できる分からない。
自分を縛る存在の力は熟知している。
その差だ。
だから、手を緩めない。
攻撃の手は止まることなく、問答無用に襲い掛かっている。
だが――。
「どうして……」
弱い声。
怯えている声。
「どうして、抵抗しないの……」
彼は防御一辺倒。反撃は多少するが、それでも手を抜いているのは自分には分かる。
――監視している者達には分からないけど。
「だって」
声が降ってくる。
「したくないのだろう」
断言。
したくない……。
そう。
したくない。
でも、しないと守れない。
「言え」
届く声。
「俺はお前を助けに来た」
だから。
「言ってくれ」
その促すような…それでいて強制しない声に。
「助けて!!」
その言葉が漏れていた。
「ああ。――やっと言ったな」
青年は微笑む。
そこの声に合わせるように研究施設が崩壊を始める。
「機械に頼ったのが仇になったな」
涼しげな声。
カメラが映像を送る事を止め、扉があちらこちらで閉まり、足止めをする。
「行くぞ」
手を掴まれて引っ張られる。
「行くって…⁉ でも、あたしがいなくなったら」
木綿子に何が起こるか……。
「――大丈夫だ」
彼は微笑んだ。
のちにその微笑みが珍しいものだと知らされるが、その時は全く知らないので。
(ああ。イケメンって笑うと反則だな)
と今の自分の現状を忘れてそんな事を思ってしまう。
「なんでそんな事言えるの?」
つい気になってしまい反論するが――それが弱い反論になっているのだが――彼は表情を変えずに――微笑みは引っ込んだら人形みたいだな――こちらを見て、
「そんな事していられる状態じゃないからな」
外に連れ出されるタイミングに合わせるようにパトカーのサイレンが耳に届く。
「学人」
「タイミング合ってましたね」
外に出ると一人の男性が待っているのが見える。
「偶然だ」
笑っているけどどこか胡散臭い――でも、利害が一致している時は信頼できるんだろうなという雰囲気の男性がこちらを見て、
「で、彼女が伊藤静姫さん?」
「ああ。――そうだ」
「そうか」
じっとこっちを見て話しをしている。
「あの……」
「伊藤木綿子さんから依頼がありました」
木綿子……。
「お姉さんが行方不明だから探して欲しいと」
木綿子の顔が思い出される。
「戻りたい……帰りたい……」
手が消えたり、現れたりと繰り返している。
「でも……」
自分が人間じゃなくなったのが見て取れる。
「気にするな」
学人と呼ばれた青年が告げる。
「――俺も同じだ」
その言葉に合わせるように、学人の身体からたくさんの電気コードが生えてくる。
「なっ⁉」
「とある組織で改造されて、この状態だ」
不自由だが、一般生活は送れる。
「あたしも……」
「……力をコントロールできればな」
そう告げられて、消えたり現れている手をずっと見ている。
「………」
気持ちが安定するとその手は普通に手として存在する事が出来る。
「出来た……」
「そうだな」
良かったな。
「さてと。ちょうどいいから警察に行こうか。――行方不明だった君を保護したからね」
僕達が誘拐したと勘違いされたら困るし。
「ここまで公が動けば、君の妹を人質というのはムリだろうね」
その言葉に安堵する。
「でも、君が何をされたかはもみ消されるだろうね」
「だろうな。警察の内部にもいるだろうし、公にしたくない内容だからな」
「……………」
あたしがされた事……。
「あたしのような目に合っている人は多いんでしょうか……」
何でそう思ったのか分からない。でも、ここに幽閉されていてもここに誰かがいた痕跡が残されている。
それは多分……。
「あたし以外にもこうやって幽閉されて実験された人が居たんですよねっ⁉」
そう。目の前の人……学人さんも。
「……静姫?」
何でか知らないけど普通に名前で呼ばれている。でも、そこに突っ込まない。
「助けれないかな……」
自分が言うのもなんだけど。自分のような人を増やしたくない。
そう思った。
「あたしのような人を失くしたい!!」
何か出来ないか。そう告げると。
「――分かった」
学人さんは何故かそう言って、
「じゃあ、防ごう」
と言い出して実行し始めた。
――それがイレギュラーの始まり。
花粉で目が痛い……




