20話 青年
学人の話。感情の芽生えって表現難しいな……
青年――学人は、静姫を攻撃するつもりも静姫の攻撃を受け入れる気も無かった。
闇しかなかった。
ただ命じられた事をする以外知らなかった。
兵器に心なんてなかった。
人形に心を求められなかった。
だが、あの日――。
差し出された傘がピンクだと初めて認識した。
『濡れますよ』
これどうぞ。
与えられ言葉が愛情だと気付いた。
こちらを気遣う行為がぬくもりだと知り、自分の周りが寒い場所で、ずっとそこに居たのを知った。
渡された傘が雨をはじいてくれるのをぼんやりと見ながら最初に思ったのは。
(返さないといけない……)
借りたら返すもの。そんな普通の事を思いつき、
(返したくない……)
そんな矛盾を抱く。
与えられた優しさをじっと見つめ、この優しさの形が自分の場所に戻ったら奪われると直感した。
奪われたくない。
そんな想いで一杯で、気が付いたら帰るべき”場所”は帰りたくない”場所”になり、戻ろうなんて想いが浮かばなくなった。
与えられなかった感情のままの行いで、組織から脱走したのだ。
心のままに行動するのは難しいし困惑する。
心のままに行動したからこれから自分はどうすればいいのか分からないし。生活に必要なモノというのは欠落しているのしか分かってない。
傘だけを手にして彷徨っていたら。
「君どうしたの?」
声を掛けられる。
近藤と名乗った(自称)しがないの探偵は俺の要領の得ない話を聞いて、
「まるで、人魚姫みたいだね……」
助けたのが逆だけど。
「人魚姫……」
知識にない。
「王子様に会いに行くために海の世界を捨てて地上に来たお姫様だよ」
そう簡潔に説明をして、
「居場所が無いのなら僕のところで働いたらどうかな? 一人では手が回らない事が多かったからこっちも都合がいいし。あっ、そうそう。君の名前は?」
問い掛けられたが、名前などなかった。
「じゃあ……マナトかな」
「マナト……?」
「愛する人で愛人。まあ、それだとなんだから、学ぶ人で学人にしようかな」
戸籍はこっちが用意しようか。裏道があるから。
そう告げられて、気が付いたら、近藤学人という人間が出来上がった。
近藤との生活は順調だった。
探偵という職業故。傘の持ち主を探したいという願いも近藤の元なら可能だろうと思い、日々を過ごす。
「学人っ!!」
それはある依頼を受ける時だった。
「行方不明の姉を探して欲しいとあったけど……これって……」
詳しい事を聞きだしたが、その姉の向かった先が組織の表の名前だった。
「この子がその行方不明なお姉さんだって……」
警察も動いているみたいだけど、なかなかねぇ~。
近藤の言葉が遠かった。
写真は制服に身を包んだ少女。
『濡れますよ』
差し出された傘。
その優しさ。
「この子だ……」
探していたのは、
「学人?」
「探していた子はこの子です。近藤さん」
学人にしては珍しい焦った声。
「じゃあっ⁉」
「助けないとっ!!」
そう。
会いたかった彼女が。自分がかつていた地獄に囚われているかもしれない事実に。
――目の前が真っ白になった。
シリアスクラッシャーな話
静姫「近藤さん。どうして学人を拾ったんですか?」
胡散臭かったでしょ。
近藤「顔が好みだったから」
*同性愛者




