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16話 ニンギョヒメ

言えない秘密を本人以外知っているというのは悪趣味でしょうか

 酒ででろんでろんに酔ってしまった学人を家まで送ったら、何故か優慈郎に会いました。


「あれ、そう言えば、あいつらって一緒に住んでんのかぁ~」

 でも、前回合わなかったし。てっきり一人暮らしかと……。


 いや、そもそも優慈郎達の家族とかも知らないな。子供をこんな危険な仕事をさせるなんて何考えてんだ。


「おや、早いね」

 異能課で調べ物をしていたら近藤が入ってくる。

「これ位普通でしょ」

 少なくても捜査課だと誰かが泊まっていたというのもザラだったし。


「いや、交通課のお局に掴まったと聞いたからね。あの人達ザルを通り越して枠だからね。酒で潰れているかと思ったよ」

「次の日に残すような事をしません」

 捜査課ではないが、暴力団相手の場合は酒とかを慣らした方がいいという考えで酒もたばこも教えられるとの事だ。


 というか。酒が回ると口が滑りやすいというのがあるので、酒は鍛えて方がいい。


「学人が潰れたんだって」

 見てみたかったな。

 にこにこと近藤が告げてくる。その情報をどこから仕入れたんだろう。

(昨日の今日で早くないか)

 疑問を当然抱くが、

「秘密のある方が魅力的だろ」

 誤魔化された。


「近藤さん……」

「んッ?」

「異能課って何ですか?」

 内部に入れば入るだけ分からなくなる。


 警察として勤務するには若すぎる面々達。

 得体のしれない能力。

 そして、家族構成も――。


「僕も若いって言われちゃったよ~」

「いえ、貴方には言ってませんから」

 そこは勘違いしないで下さい。


「養殖ものと天然とか……どういう事でしょう」

 静姫と【ルシフェル】とやらの会話(?)にあった。正直意味が分からない。


「…………」

 近藤の顔。笑っているのがデフォルメだったのが崩れる。


「……………まあ、疑問に思うよね」

 じっとこっちを見て、

「まあ、いつか言わないといけないと思ったけどね。――君が異能課で所属している限りは」

 部屋に置いてあるポットの所に向かって、コーヒーを入れ出す。


「……………………これは独り言だよ」

 コーヒーをかき混ぜながら、言い訳のように告げる。


「学人は僕が拾うまで、人形だった。――いや、とある組織で育てられた兵器だった」

 くるくる

 コーヒーにミルクを入れる。


「なっ、何…⁉」

「――あくまで独り言だけど。学人は自分の両親を覚えてない。物心つく時には人ではなく軍事兵器として教育されて、自分の能力がどれだけ異端か自覚が無かった。いや、異端だと思う心が育ってなかった。兵器として育ち、命じられるまま能力を誇示して、そこに何の想いも浮かばなかった」

 まだ人を殺すまでに至らなかっただろうけど、あのままだったら人を殺す事を平然としていただろうね。


「日本で……?」

 治安の悪い所では、子どもを兵士として育てるテロリストがいる。子どものうちから組織のために死ぬ事が正しいと教育……洗脳されると聞いていたが、日本でもそれがされたという事だろう。近藤が拾ったという言葉を使ったという事は。


 近藤はあくまで独り言だという体裁を保つためだろうこっちの呟きなどお構いなしのようだ。


「ある雨の日だった。学人が産声を上げたのは」

「……?」

「実戦に投入される前に外の世界に慣れさせる訓練だったそうだよ。雨の中学人は外の世界を歩いた。環境に慣れさせる訓練もあったんだろうけど、雨の中で濡れた青年が雨宿りもせずに歩いているのは不気味だよね。そこに一人の少女が傘を貸したんだ」

「少女……?」

「怖いよね~。知らない得体の知れない青年が歩いているのに傘を貸すなんて、いや、本人は貸したというよりもあげたに近いだろうけど、学人にとって、人として接してもらえた事自体初めてだから、そこで戸惑いという感情を自覚したんだって~」

 可愛いよね~。ホント。


 傘……。


 学人の部屋に置いてあったピンクの傘。

 学人に合わないと思ったが……。


「いつだって、学人をヒトにしてくれるのは傘の持ち主。本人は忘れてしまうほどの些細な事だったけど、学人にとってはその少女がいなかったら兵器のままだった。だからね。その少女に会いたいという感覚で脱走して僕と会ったんだよね~。人として彼女に会いたいからと」

 人魚姫かなと思ったんだよね。それ聞いて。


 ふふっ


 近藤は面白がる様に笑っている思い出し笑いだろうか。


 学人をヒトに戻す少女……。


(あれっ?)

 似たような事聞いたような……。


 確か、

「静姫が学人を人間らしくさせるって……」

 というような事言ってたような……近藤さんとか、優慈郎とかむつがが……。


「えっ⁉」

 傘を渡した少女。

 それって……⁉


 くすっ

 近藤さんが楽しげに微笑んで指先を口元に持っていく。


 内緒だよ。


 その動きが答えだと言わんばかりに。


「――全然独り言じゃないですね」

 ドアが開き、むつがが入ってくる。


「おはよう」

「おはようございます。――しかも、さりげなく神崎さんの疑問を応えてないですね」

 疑問………?

 というよりもきちんと神崎と呼ばれた――。

 カンザキさんカンザキさんと呼ばれ続けたのに。


「ああ。そうだ!! 天然物と養殖ものっ⁉」

 誤魔化された――!!


「本題に入るのが時間かかりそうですね。近藤さんの()()()では」

 呆れたように溜息を吐いて、

「――わたくしとユージは天然物。学人と静姫は養殖もの。人の手によって強制的に能力を開花させられたモノを養殖と言います」

「あっさり言うね~」

「隠し事は好みません。――ましてや、信用すると決めましたからね」

 きっぱりと告げるなと感心してしまう。


(こういうのを竹を割った性格というんだっけ?)

「何を考えているのか察しますが、近藤さんが独り言にしたのは言いにくいからと事前に告げておきます。――学人が脱走するきっかけを作る静姫が皮肉にも()()()()()()()()()()()組織に囚われて改造されました。学人が静姫に会いたいというだけで組織を脱走して、再会したきっかけは静姫を助けて欲しいという静姫の妹の縋る声でした」

 むつがの淡々という感じで告げる。


「だから、人魚姫なんですよ。学人は静姫に助けられたのにそれを言えない。もし、組織から脱走しなかったら改造される前に助けれたかもしれないという負い目があるから」

 馬鹿ですよね。


「きっぱり言うね~」

「見ていてイライラしますので」

 近藤とむつがが盛り上がっているなと思いつつ、

「同じ組織なのか……?」

 まあ、同じような事をした組織が二つも三つも日本にあっちゃいけないと思うけど。


「そうですよ」

「そんな事があったから異能課を作った。まあ、誕生秘話だね」

「渡りに船でした。――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 んッ?


「ああ。天然物の事だけど。むつがと優慈郎は」

 言葉を一度区切る。


「――神様だから」

 この人冗談を言っているんですよね。

 


学人はいわゆる光堕ち(?)。闇から救われた者です

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