14話 合コン
新章です。
――前略お袋さん。
もしかしたらすぐに天国に行く事になりそうです………。
「楽しいのか?」
とある居酒屋。
学人が意味が分からないと座敷の奥に座らされて呟く。そう逃がさないために――。
「そういう目的があるんだったら」
座敷では数人の女性と話をしている輩。そして、女の子に声を掛けられてでろでろになって鼻の下を伸ばしている後輩の姿。
そうここは合コン会場である。
「目的……」
「来るのは初めてか?」
まあ、そうだろうけど……。
「………」
答えが分かっているだろうとばかりに黙っている。
「…………」
こいつ扱いにくいな。ホント。
ってか。何でここに来たんだ。
~回想~
「先輩。いなくなって寂しいっすよ~!!」
「分かっていた事だろっ!! お前も普通に見送っていただろうがっ!!」
「でも、先輩のしてきた仕事も俺に回ってくるんスよ~。辛いっす~」
グダグダ異能課まで愚痴りに来るなよ。来る間に進められる書類もあんだろっ!!
「せんぱ~い!!」
「ははっ。慕われていたんだね~」
「すみません。すぐに外に出しますから」
だからその生暖かい視線勘弁してください。
「先輩っ。寂しいっすよ!!」
「だからくっつくんじゃねえ」
廊下に出てまで言い続ける後輩に呆れて溜め息しかでない。
「仕事じゃ一緒に居られないが、プライベートでは関係ないだろう……」
「なら!! 酒飲みに行きましょう!!」
「――あら、いいわね」
声を掛けられる。
そこには交通課の女性陣。
「それ私達も加わっていいかしら」
有無を言わさない口調。それが交通かの女ボスという異名を持つお局から発せられたモノなのを感じる。そして、お局の後ろには期待してこちらを見ている女性陣。
そんな中。
「入れない」
空気を読まずに学人が入り口をふさいでいる集団に声を掛けたのだが、
「近藤君っ!!」
因みにこの近藤は学人である。つい学人と名前で呼んでいるから忘れがちだが、
「ちょうど良かった~♡ 近藤君も親睦会に参加しない~♡」
いつ親睦会になった。
「…………」
学人は興味ないとばかりに中に入ろうとするが集団が邪魔で入れない。
というか、学人の無言の圧力に耐えていられるこのお局強者だな。
(伊達に女ボスの異名を持ってないな)
学人とお局の睨み合い――にしか見えなかった――は、
「分かった――」
学人の敗北で終了して………。
「――今に至る」
「どこ見てしゃべっている」
遠い目をしていたら学人から問い掛け――というモノでもないなこれ――られる。
「お前なら、お局様に勝てると思ったんだけどな」
因みに親睦会が合コン会場になったのはそこから交通課のお姉さま方がいろんな所に俺と学人の参加を告げたらりとあらゆる所が自分達もと騒ぎだし――学人顔だけはいいので――それを聞きつけた男性陣も俺らも参加したいと喚き、こうなった。
異能課の他の面々はいろいろあって参加しないが――。
(酒が苦手な静姫とか、お酒が飲めない優慈郎とむつがを連れて来ちゃヤバいしな。近藤さんは『ハハッ。こういうのは若い子達だけで楽しむものだよ』といって逃げて行ったからな)
俺も逃げたかったのに――。
「情報を仕入れるのにこういう事は有効だとあった」
だが、無駄足だった。
そう言いたそうな目をしてるな。いや、表情変わらないから分からないけど。
「意味が不明。何故、太るのを気にしているのに油物を食しているのか。お酒に弱いと言いながら酒を追加注文しているのだ」
「………それ彼女達に言うなよ。後が怖いから」
こいつならべらべらしゃべりそうだ。
「それとも、そうやってストレスを与えて能力上昇を……」
「それって静姫の事だよな」
確か彼女はそうだった。
「妙なところだ。さっきから乾燥しているのか喉が渇く」
「それで酒を飲ませるんだ」
あえて、そうやって乾燥させている店もある。
そうすると酒を買う量も増えて儲かるから。
「………酒を飲むと余計喉が渇く。そう言う報告書があるが」
因みに学人が飲んでいるのはウーロン茶だったりする。
「それ言うなよ。分かってても楽しみたいと思うんだから」
「意味不明。次の日苦しむのにどうしてあえてその苦行を目を背けれるんだ」
「ああ。二日酔いの事か。飲んで忘れたいという事もあるんだよ」
「……記憶は時が一番の薬だが」
酒を飲んで忘れるなど都合よくいかない。
「酒は理性を欠落させ、過ちを犯しやすい、一夜の過ち、飲酒運転などはその極みだ」
ましてや危険予防の対策がなされてない。
「酒の席での失言が後々影響を与えるのだ。酒は控えるべきだろう」
「静姫に呑ませているお前が言うなよ」
こういうのは人の振り見て我が振り直せというんだろ。
「静姫の場合、能力発動条件で一番手頃なのがそれなだけだ」
それ以外の意味はない。
「能力上昇ね~」
「……養殖ものであるから能力を自由に扱うのが苦手なので、過度なストレスでアドレナリンを放出させて無理に力を使う。いわゆるドーピングだ」
「ドーピングってな……」
というか。養殖もの?
「何だそれは?」
「………もともと能力の資質はあったが、ある条件が重ならないと能力が発動しない存在を無理に能力者に仕立て上げたモノを養殖ものと組織は言っていた」
そう言えば、あの【ルシフェル】とかいう輩がそれらしい事を言っていたな……。
「お前はどっちなんだ?」
いつもなら言葉を選ぶ。ましてや触れてはいけない事だと思ってきかない内容だが、つい口が滑った。
「………これも酒の弊害だな」
学人の冷たい視線。
「悪いっ!!」
今の話は無しだと慌てて訂正しようとするが、
「俺と静姫は養殖もの。優慈郎とむつがは天然ものだ」
…………………まさか、素直に教えてくれるとは思ってませんでした。
「…………………あの二人は元々組織が動いていたとある事件で見つけた。覚醒者だったからな」
覚醒者。
「って、なんだ?」
「…………古の神が封じた災厄。おとぎ話の世界の話だ」
それだけ告げると学人がテーブルに伏してしまう。
「おいっ!! 学人!!」
「あれぇ~。これただのウーロン茶だ~」
「どこかに俺の注文したウーロンハイないかぁ~」
酔っ払い達の言葉を聞いて、
「まさか……」
学人の飲んでいたモノの匂いを確かめる。
「うん………」
まさか、ここでお約束をするとは思ってなかった。
「これ、ウーロンハイだな」
どうやら学人も酒に弱かったようだ。
「マジかよ……」
いつも静姫に呑ませているから強いと思い込んでいた。
情報が交錯する。
意識が統一しない……。
(これが酒に酔うという状況……)
冷静さが欠落する。
『人形兵器として最高品だな』
声がする。
『お前は数少ない成功例だ』
撫でられる手。
……ああ。これが『気持ち悪い』という感触なんだろう。
『……風邪引いちゃうよ』
差し出された傘。
中学生と呼ばれる存在だと知っていた。
道端で座り、怪しげな格好をしている自分をその子は躊躇いもせずに自分の傘を渡した。
おぎゃあ
泣く声がする。
愛情を求めて泣く子どもの……赤ん坊の泣き声。
光が見えた。
それが伊藤静姫との出会いだった――。
神崎さん視点で学人中心お話です。




