12話 異端者
こうして巻き込まれる……
捜査状も取った。
廃病院に捜査官が派遣される。
中で何が行われているかは分からないが、逃げる隙も無いだろうと思って、一斉に中に入る。だが、そこにあったのは――。
「……っ⁉」
地獄絵図だった。
水槽の中に居る身体を別の生き物と融合されていた子供――。
皮をはがされ、動物の皮を着せられた子供。
腕が、足が、阿多案がそれぞれ別の生き物にされている子供――。
それらの死骸。
「うっぷ」
誰かが見るのがきつくて吐き気を催している。
俺だって、こんな悲惨な状況を見るのは辛いが、耐える。
「ここに被害者は……」
生きていて無事な者はいないか……。
辺りを探す。
そう。自分達は捜査するのが間に合ったという自分達が救えなかったという事実から救えたんだという希望を求めて助けられる者達を探す。
「先輩っ!!」
ある一室を見て呼ぶ後輩に。
「何があった!!」
無事な物でもいたのかと縋るようにそこに向かうと――。
白衣を真っ赤に染めて、殺されている者達がいた。
簡潔に。抵抗をしたと思われるが、抵抗する間もなく倒されたと思われるものもある。無駄に長引かせないで、即死させる手段。
――手慣れている者の犯行だと見ただけで分かる。
「ルシフェル……?」
静姫達が言っていた。暗殺集団。
白衣の男達はある者は刃物――二種類あるようだな切り傷が異なっている――ある者は弓矢。ある者は殴られたように。ある者はワイヤーが絡みついている。
――複数犯だとはっきり分かる。
「異能課に連絡を付けろ」
そう。これがあいつらの探している輩のだったらあいつらの方が詳しいだろう。そう思っての発言だったが、
「――もう来てるよ」
声がしたと思ったら何もない空間から静姫が出現する。
「でっ、出たぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
耳元で騒ぐな煩いだろう。というか。
「こんな殺人現場でその登場をすると幽霊と思うからやめろよ」
因みに俺は動じてない。………慣れたか?
(いやなものに慣れたな~)
「ごめんね♡」
…………………………………反省してないな。こいつ。
「実際そのままで来てたら煩かったでしょ」
静姫のいう事は正論だが、
「だからって急に現れるな!!」
「――静姫が迷惑かけたな」
入り口から声がしたと思ったら学人も居るのか。
「迷惑って、そんなに迷惑かけてないじゃ~ん」
ブーブー。
「騒ぐになるのなら迷惑だと……お前が教えてくれただろう」
「は~い。そうでした~」
降参とお手をあげる静姫に学人は、
「――正論で文句を言う方がおかしい」
と一刀両断して、殺人現場に真っただ中に足を踏み入れる。
「――静姫」
「ふぁッ⁉」
「こいつの顔は覚えてるか?」
死体の一つの頭を持ち上げて顔を見せる。
「あ~……」
嫌なもの見ちゃった~。そんな反応。
「姿を晦ましていたと思ったらこんな末路か」
「ざまぁと言うべきか。あたし達が捕らえたかったか。微妙だね~」
「………こういう時は同意すればいいのか?」
「感じるままに思えばいいんじゃない?」
「……………………難しいな」
「学人は自分の心というのが一番難しいって言ってるしね~」
漫才をしに来たのかこいつら。
「――で、知ってるのか?」
らちが明かないとばかりに尋ねると。
「あたしを改造した奴~!!」
「俺に人体実験を繰り返した奴だな」
……………おい。
言ってる内容が内容なんだからもっと悲壮感とか出せよ。って、言うか……。
「人体実験?」
「そう」
「学人もか?」
静姫は聞いてたけど。
「分かると思ったが」
学人は簡潔だ。まあ、確かに人外の能力だけどさ~。
学人はその場にあった機械に触れる。
「見事に壊されてるね~」
「再現されたら困るからな」
何が壊されているのは分からないが何かを調べているようだ。
「知りたい事は再現できそう?」
今、再現できないとか言ってなかったか?
「何勘違いしてる」
「再現されちゃ困るって壊してくれたのは、人体実験の再現。あたし達が知りたいのはこの実験された人達の身元」
返せるものなら返してあげたいでしょ。
「確かにな」
行方不明者の桃と走りたいな。家族も捜索願出してるだろう。
「………………………………静姫」
納得をして頷くと学人が静姫を呼ぶ。……珍しいな普段無表情のこいつが迷う様にこちらを見てくるなんてな。
「ああ…。うん……。学人の言いたい事も分かるよ」
何が言いたいんだ?
「でもね。いつまでもここに居たくないと思うんだよ」
「……………」
「それにさ」
静姫がここから先は口にしない。
「確かにな」
何アイコンタクトで語ってるんだ。説明不足だぞ。
因みにそんな会話をしながらも学人の手は止まってない。
「カンザキ」
「神崎だ!!」
お前もか。お前もか!!
初めて名を呼ばれたのに間違えて覚えてるぞ!!
「分かった。神崎」
あっ、言い直した。
「――これはお前の身内じゃないか?」
モニターを見せられる。
検体番号E-7793。ミアヤ・カミザキ。
検体番号A-8931。カイリ・カミザキ。
LOST
と書かれている。
「ロスト……?」
「――学人。学人とあたしの情報は?」
「調べてる」
すぐに次の文章が出る。
「――やはりか」
「あらま」
検体番号E-1591219。シズキ・イトウ。LOST。
検体番号A-38。ノーネーム。LOST。
「脱走した者は『LOST』でまとめているな」
「実験中で亡くなった者はLOST書いてないからね~」
他の者達の情報を確認しての結論だろう。
「良かったね。カンザキさん」
「どこかで生きている」
どこかは知らないがな。
…………生きている。
『に~ちゃ』
あの子が?
『にいちゃま』
服を掴んできたあの子も?
「そっか……」
ははっ
笑っているのに何故か。
つぅぅぅぅぅ
目から何かが流れる。
それの正体に名をつけたくない。
「でも……実験体にされたのは確実だね」
「だろうな」
静姫と学人は意味深に視線を交わす。
「まあ~。残ってる証拠を調べてもらわないとね~」
やけに明るい口調で、静姫は言い出す。
「だな」
「という事で手伝ってくださいね~」
何時の間にか捜査課の奴らを借り出す静姫と学人。
迷惑な奴だと思って溜息を吐いたら――。
「静姫……?」
いつの間にか消えてる。
確かに消えるのはあいつの専売特許だけど。急すぎないか。
「先輩?」
「少し席を外す」
告げて静姫を探しに行くと……。
「――いつまでこっちを窺ってるの?」
不愉快だと声を荒上げる静姫がそこに居た。
バレてたかと思ったら。
「さっさと何とか言ったらどうなのっ⁉ ルシフェル!!」
静姫の苛立った声に反応するように。
そこら辺に転がっていたモップが浮かび上がり、モップの先が濡れて、壁に大きく文字を書きだす。
『依頼主の希望は自分達を殺して欲しい。そして、第二の自分も作らないで欲しいという内容だった』
はっきり字が見えるが、水で書かれた字はすぐに乾いて消える。
「殺して欲しいって……」
『私達は依頼に答えた。実験台にされて家族に会っても家族を悲しませるか化け物扱いされる。それなら殺して欲しい。だった』
「だからって!!」
『正しいとは言わない。だが、望む事を叶える。それが私達だ』
お前達と相合わないだろうと断言するのが文字に書かれなくても分かる。
「……それは貴方達の経験から?」
静姫の問い掛けに。
『その問いかけに意味はない。私達は能力者は一人だけであり、その一人である私は養殖物ではなく天然物だから』
天然……。
『貴方達に情報を渡したのは一応信用したから。だから』
『この悲劇を繰り返すな』
それだけ書いたらモップがカランコロンと落下する。
「言われなくても……」
壁が粉々に砕ける。
「するわけないでしょう!!」
静姫が怒りを宿して破壊したのだとすぐに分かった。
そっと。その場を後にする。
――それが正解だった。
俺らの前に現れた静姫はいつもと変わらない胡散臭いとしか思えないを浮かべていたのだ。
「……………」
だけど、それに悪態をつく気になれない。
………静姫のその笑みは自分を守るための自衛方法だとなんとなく分かったのから。
ルシフェルは予定よりも早い登場でした……




