9話 伊藤家
キャハハな展開にさせません
どうしてこうなった?
「カンザキさん」
「神崎だ!!」
いつもの様な突っ込みをすると。
「うちでご飯食べてく?」
「はぁっ⁉」
何で急に!!
「捜査協力じゃないけど……あたしの帰宅時間だし」
別行動するのも都合悪いし。
「だからってな!!」
「それに……」
耳元でささやかれる。
「――また。捜査打ち切りとされたら厄介でしょ」
そうだ。静姫の場合打ち切られてからの救出だったのだ。
「――という事でうちに来てください♪」
大した物は出来ませんが。
そう言われて、女の子の手料理かぁ~とほとんど自炊しない環境――しかも食事中呼ばれる事もある―― ロマンスを期待――相手にもよるが――してもおかしくないだろう。
まあ、期待したとたん寒気が襲ってきたけど。
そんなこんなで静姫の家に向かったのだが――。
「一軒家……」
警察寮じゃないのか。いや、女子寮は男子立ち入り禁止だから考えてみれば当然かもしれないが……。基本、寮に入るのは決まっていた気がするのだが……。
「妹が居るから免除されたんですよ」
こちらの疑問に気付いたのか静姫が答える。
「あたしが寮に入ったら妹が一人になりますからね」
……ああ。そうか。
(俺も” ”が居たらそう判断したのかもな)
炎の海。
息が苦しくて視界が封じられた。
熱くて、熱くて、逃げるのに必死で………あの子達を………。
「カンザキさん」
呼ばれて我に返る。
「神崎だ」
「――協力するって、近藤さんが告げたよね」
見透かすような眼差し。
「お前……」
「お前じゃなくて、伊藤静姫!! 異能課から引き抜きの話しあったでしょ」
にこっ
「――引き抜きに応じる気はない」
「まあ、それもそうだね。――でも」
にやっ
「――すぐにその考えは変わるよ」
確信をもっての言葉。
「お前……」
「たっだいま~。今日仕事の同僚連れて来ちゃった~♪」
さっきまでの表情を捨て去り、明るい顔で家に入る。
「ああ。言い忘れてました」
まだ、妹は見えない。
「木綿子はあたしが警察だと知りませんのであしからず」
「おいっ!!」
今言うのかよ!! そう言うのは早めに言え!!
文句を言おうとしたがそれが止まる。
「おかえり」
迎えたのは無表情の女の子。
ブレザーを着ているので高校生だと分かるが、顔は大人びている。
(伊藤が子供みたいに顔がころころ変わるけど、変わらないな……)
静姫と話をしているが顔は基本変わらない。たまに眉間に皺が寄る程度だ。
(静と動という感じだな……)
静姫という名前この子の方が合ってないか?
「姉の同僚ですか……」
妹――木綿子だったかじっとこちらを見てくる。表情は変わらないが探るような眼差しだけはビシビシと感じられる。
「着替えてくる」
「行ってらっしゃい」
ひらひらと静姫が手を振る。
「無表情でしょ」
「……お前と逆だな」
「良く言われます~♡ 本当は《動》という字を使った名前を付けたかったけど、思い浮かばなかったから有働から来てのゆうこ……で、字は当て字~♪」
「酷いネーミングだな」
「ははっ」
そのネーミングを知らなければありふれた――字はともかく――名前だと思ったのにな。
「でも学人よりましだと思うよ」
「学人……小さい近藤か」
「小さい近藤っ⁉ うわっ、合わな~い!!」
小さくないじゃん!! そう喚くのを見て、ホントこいつの両親は静姫という名前をどうしてこいつに付けたんだろうと心配になってきた。
「まあ、………本当は愛人と付けたかったらしいけど、それってアウトだろうと止められて今の字になったんだって」
「…………」
愛人て書いてまなと……。
笑える。
「あっ。これ学人には内緒ね。触れられたくない話題だし」
その名づけをしようとした親に捨てられたんだから忌々しいとしか思えないと言ってたし。
「えっ………」
捨てられた……いや、珍しくないか。そう言うのも……。
「普通によくある話だよ。――化け物に改造されたんだからそういう環境に置かれていたと思った方がいいよ」
優慈郎とむつがは少し違うけど似たようなものだし~。
静姫のあっけらかんとした言い方。
聞いてはいけないないような気がするのにこうべらべら話していいモノだろうかと不安になるが……。
「――心配?」
笑いながら――こちらを試すような眼差し。
「あたしの事を調べさせるならこっちの事情もある程度教えてもいいと許可を貰ったんだ」
同情で仲間に引き入れたいしね。
笑っている――静姫はいつも笑っているが、冷たい笑みだと思えた。
こちらを探るような、沼に沈めようとするような薄気味悪さとか……。
「なんで……」
意味が分からない。
「なんでそこまで俺を入れようとするんだ……」
問いかけると。
「カンザキさんも」
「神崎だ!!」
「同じ闇を抱えているからかな」
同じ闇……。
「まあ、あたし達に対しての反応とかいろいろ理由があるんだけどね」
詳しくは内緒。
そんな事を話していると木綿子が着替えを済ませて降りてくる。
だが、
ぞくうぅぅぅぅぅ
殺気に近い冷たい眼差し。
――それを向けているのは木綿子。
「姉さん。いつまでもお客さんと一緒に玄関に居るつもりですか?」
「あっ、そうだった。上がって上がって」
声を掛けられてお客さん用のスリッパを用意される。
その間ずっと鋭い視線は向けられ続けている。
(なんか妙な視線が……)
そちらを確認すると木綿子がいる。
そこには明確な殺意。
俺何かしたんだろうか……。
「じゃあ、ご飯作ってくるね~♪」
そうこの場の空気に気付かずに静姫は去っていく。
その静姫が居なくなったとたん。
「――姉さんに手出ししたら」
それ以上は言わなかったが、その視線は鋭く。
「姉さん。手伝う」
もう興味ないと去っていき、台所にいる静姫に声を掛ける。
だが、残された方は――。
(殺されるかと思った……)
冷汗が流れる。
まさか、
「重度のシスコンかよ……」
本気で怖いと思った。
学人も苦手な静姫の妹……(似た者同士なのにね:静姫談)




