0話 異能使い
行き詰って書いた話。
一応長編にしたけど気が向いたら続けます
「あれっ? 電気ついてるのに……」
部室に入ったとある男子は、誰もいないその部屋を見る。
「人が居ない時は電気を消せって、いつも言われてるだろう。バレたら何言われるか~」
ってか、何でDVDデッキまでついてるんだ。
ぶつぶつ文句を言い、デッキに近づいて電源を切ろうとする。
「ぎゃぁぁあああああぁぁぁぁぁぁ!!」
悲鳴が響く。
「どうしたっ⁉」
「大丈夫ですかっ⁉」
その悲鳴を聞きつけて、慌てて部室に入る部員二人。だが、そこには誰もいなかった――。
「って、事ですけど」
「窓も空いてない。出入り口はドアだけど、間髪入れずに中に入ったからそこから出て無い」
警察がその部室を調べている。
「どうせ。悲鳴は聞き間違えでしょ。テレビとかからした悲鳴とか」
調べている一人がそう告げるのを現場責任の青年は聞いて苦笑する。
「んな訳ね~だろ!!」
「あの声は確かに、**君です」
事情聴取していた二人にしっかり聞こえてしまい、
「……また、報道に警察たたきのネタ与えやがって」
とベテランの監察官が独り言を呟いている。
「出入りした形跡はありませんね」
「じゃあ、テレビとかか」
「それが……」
「――録画を見る為だけで、地デジ対応してないけど」
「ここにあるDVDは部活関連だ。悲鳴などないだろ」
声が降ってくる。
そこには、ピンクの服を身に纏ったポニーテールの少女――これでも19らしい――ときっちりした服を着こんだ青年が黄色のテープを超えて入ってくる。
「関係者以外の立ち入りは…」
慌てて止める新人の刑事を止め、
「――何しに来た。ゼロ課が」
警視庁特殊犯罪撲滅課――通称ゼロ課。
常識に考えて、起こりえない事件を解決する捜査課――という名の得体のしれない集団がここに来るのは。
「ヤッホー。カンザキさん♡」
「俺の名前は神崎だ!!。ここは、捜査課の仕事だ。何でお前らが来る」
文句を言うと現場の責任者――神崎に声を掛けてきた小娘はにこにこと笑い、
「何言ってんの。これはあたしらの仕事だよ。ねっ、学人」
「……静姫」
「は~い。黙ってま~す♡」
「………」
学人――近藤学人。静姫――伊藤静姫。ゼロ課のエース達だ。(もっともゼロ課は人数が少ない)こいつらが出てきて動いた未解決事件も数多く、捜査課からすれば目の上のたんこぶの様な存在である。
俺らが自分達の手足で調べていた事件はこいつらの得体のしれない何かで解決されていく。それは見ているこっちからすればどんな手品を使ったのかと文句を言いたくなる代物だ。
「……いるな」
「あっ、やっぱり」
「おそらく逃げらなかったのだろうな。地デジ対応してないテレビで良かったな」
「他の電気機器は?」
「節電対策でコンセントが抜かれていた。――被害者のスマホを外に置いとけばまだ逃げられたものの」
「わ~。おバカさ~ん」
くすくす
意味が分からない事を言っている二人に困惑する。
「引き摺り出す。――静姫」
「もうしてるよ~ん」
「ならいい」
だから二人だけしか分からない言葉を話すな。
「お前ら!!」
「あっ、みなさ~ん。危ないから壁にくっついてくださ~い。後、警察名乗るのなら。一般人を巻き込まないように気を付けて下さいね♡」
ふざけた口調だなと文句を言おうとしたら現場の一人は。静姫に近付き掛けて、
「――巻き込みますので」
名の通り静かな口調――今までの名前に合わない騒がしい雰囲気から一変して真剣な表情になる。
「部屋から出ない方がいいのか?」
俺が尋ねると、
「出れない様にしてますので」
そう言葉が返ってくる。
「警部……」
「こいつらの言っている事に今は従え」
指示を出す。
第一発見者を庇うように壁に向かうと、
「全員に次ぐ。――今からの光景は見るな」
「警部っ!!」
「警部…⁉」
「もし、見るのなら。――覚悟しておけ」
その言葉に部下が従ったかどうかは分からない。
――俺は今から起こる光景を目で追うのが精一杯なのだ。
「………」
学人はテレビに近付く。
「逃げた先が悪かったな」
にゅるっ
手をテレビの中に突っ込む。
「捕まえた」
まるで釣りをするようにテレビから二人の人間を引っ張り出す。
一人は分からないが、もう一人は行方不明になっていた青年。
「静姫!!」
「神崎さん。この人お願いね」
こういう時はきちんと名を呼ぶ静姫に呆れつつ、行方不明になっていた青年を保護する。
「ちっ!!」
テレビから出たそいつは窓から逃げようとする。
「あ~。無駄無駄(笑)」
静姫の声に合わせるように見えない壁がそいつの動きを阻む。
「この部室はあたしの支配下だから」
にこにこ
見えない壁にぶつかって鼻を摩っている男に静姫は近付く。
「電気を使って移動する《異能使い》か」
「なんで、よりによってここに逃げ込んだのかね~」
面白がるような口調。
「ちッ!!」
馬鹿の一つ覚えなのか。それしか言ってないなと思いつつ、保護した青年の怪我を確認する。
「俺は選ばれた人間なんだ。こんなところで捕まるわけにはいかない」
「選ばれた人間が飲食店で無銭飲食をして電気を使って逃げるなんて三流な事するなよ」
「あれっ? あの子供じみた事件の犯人なのこいつ?」
小物臭してたけど。
「煩い!! 煩い!!」
そいつが静姫を攻撃するが静姫は避けている。
「大方。急に異能に目覚めてどんな事が出来るか試してみたくなっただけだろう」
「それでする事が無銭飲食って、ださくない」
「黙れ!! 俺は選ばれたんだ。この力があればなんでも…そうだ。世界すら支配できるんだ!!」
ばちばちっ
電流が流れていく。
「うわ~。こういうのってなんていうんだっけ? えっと、中二病?」
「馬鹿だろう。単純に」
静姫の面白がるような言い方――それでも見下し感が隠しきれてないと淡々と表情を変えない――それでも馬鹿にしているのがありありと分かる口調だ。
「取り敢えず出した。――後は任せる」
「はいはい」
静姫は分かってますと答え、
「という事なので。世界を支配できるって力を見せてみたら(笑)」
挑発。
「おまっ……⁉」
単純なのだろう。そいつが静姫に向かって襲い掛かってくるけど。
「あのさ」
静姫の姿が消える。
「世界を支配ってこれ位対応できないと無理だよ」
男の背後の空間に手だけ出てくる。手は男の肩に触れて、
「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁああああぁぁぁぁ!! お化け―――――!!」
男が悲鳴を上げる。その悲鳴にその場に居た者達は全員その手を見てしまう。――俺の警告を忘れて。
「化け物……」
「ひっどいな~」
にこにこと笑って空間から静姫は出現する。
「さてと、あたし達はこれでもお巡りさんだからね」
捕らえさせてもらうね。
空間から出現する手錠。
「安心しろ」
お前のような《異能使い》専用の手錠だからな。
学人が冷静に告げる。
男は、それを見て怯え、手頃の電化製品で逃げようとしているのだろう警察の方に向かっていく。
「ム~ダ♡」
その言葉と同時に学人の身体から大量のコードが出現して男の動きを封じる。
「さっすが。学人。すばや~い」
パチパチ
拍手をする静姫に、
「静姫」
注意するように声掛ける学人。
「はいは~い」
かしゃっ
男の手にはめられる手錠。
「急に力を手に入れて有頂天になっていたおに~さん。教えてあげるね」
にこにこと。
「お兄さんみたいな《異能使い》という存在は結構いてね。そして、犯罪を起こす者もいるんだ」
困った。困った。
「でね。そういう困った犯罪者対策に同じ《異能使い》の警察官が居たりするんだよ」
静姫は楽しげに笑って、
「――残念だったね。《異能使い(あたしたち)》に見つかって」
男は観念したように動かなくなる。
「後の事はお願いします」
学人が俺に向かって告げる。
「――俺はお前達を認めない」
「分かってます」
いや、分かってない。
こんな子供に危険なところに送り出して、のうのうとしているなんてそんなバカげた事があるか。
「………」
こいつらと付き合いは長い。そう、学人は21歳という年齢だが、こいつがこの仕事に就いたのは5年たっている。静姫は少し短い3年。
こいつらの捕らえた犯人はおそらく俺らと桁が違う。だけど、こいつらは正当な評価をされない。
「化け物……」
こいつらと現場で会うのが初めてだった奴が呟く。
「………っ!!」
怯えたように後ずさる者もいる。
これがこいつらに起こる現象。
それが不愉快だ。ああ。でも一番不愉快なのは、
「………」
それに全く動じずに、仕事を片付けていく二人の姿だ。
(ああ。どうしてそんなになるまで慣れちまってんだ)
見ていて痛々しい。
だからこそ。認めない。
自分達を誰よりも化け物扱いしているそいつらに、お前らを特別扱いしないという意味も込めて今日も悪態を吐く。
「おらっ、さっさと片付けるぞ。またあいつらに手柄を横取りされたんだ!!」
部下を叱りつけてこの空気を入れ替える。
――これがは、ゼロ課。《異能》と呼ばれる存在が起こす事件の一つ。ただし、その存在は世間に混乱を生み出すという事でまだ正式に公表されず。ひっそりと消えていく事になるのであった。
日本人によくある苗字にいやね~だろという名前の組み合わせです