え? オレの特殊能力が
<7>
ワンダー○アを手に入れてから、オレが1日にする腹筋運動の量は加速度的にアップしていった。
腹筋をしたら理想郷が待っている? ならば腹筋をするしかないじゃないか!
そういうわけで日課の腹筋を楽しくやっていたある日のこと、目の前に突然文字が浮かび上がった。
\(^0^)/ レベルアップしました \(^0^)/
いや、最初はただの目の錯覚だったと思ったんだ。
腹筋のやり過ぎで目が疲れているんだと、そう思っていたんだ。
目頭を押さえてマッサージした後にもう一度目を開けたら、その文字は消えていたから。
でも、すぐに錯覚じゃなかったと思い知ることになった。
<8>
学校での昼休みのことだ。
便意を催したオレはトイレに駆け込んだ。大のほうだ。
そして下腹部に力を込めて出そうとしたときにそれは起こった。
大きいのを尻から出すときに小さいほうが一緒に発射されることってあるよな?
だから、オレも変な方向に発射しないように左手でアレを抑えていたんだ。
その感覚が無くなった。
手で押さえていたものが消え去ったんだ。
気がつけば髪の毛は肩にかかるほどの長さになっているし、胸の辺りにも重みがある。
足元にずり下ろしていたはずのズボンの感覚が無い代わりに、腰からカーテンのような布が伸びているのが分かる。
そして何より、力んでいたときに漏れ出た声が、男子トイレにあるはずのない色をしていた。
つまり、おなかに力を込めたら、女に変身していたってこと。
ご丁寧に制服を女物に変えるというオマケつきで。
何でこんなことにと考える間もなく、事態はより悪化する。
男子トイレの中が急に騒がしくなる。
何人かの生徒が用を足しに来たんだ。
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みんな知っているとは思うけど、学校のトイレの大の方は、扉が閉まっていると
中のヤツにちょっかいをかけてくる馬鹿がいる。
意味も無く扉を叩いてきたり、
「学校でクソなんか出すなよ。くっせーな」と煽ってきたり、
中でも最悪なのは、中を覗こうとするヤツだ。
そして今回入ってきた馬鹿は、その最悪のパターンのヤツだった。
隣の個室でガタリと音がした。
個室の壁に足をかける音だ。
想像してみてほしい。
珍しく閉まっている男子トイレの扉、どんなヤツが入っているかと覗いてみたら、
中には胸の大きな可愛い女の子が入っていた。そんな光景を。
どうなると思う?
答えはオレには分からないが、どうせロクなことにならないのは分かる。
だからオレはヤツがトイレの中を覗き見る前にこの状況をどうにかする必要があったんだ。
<10>
そのとき、頭をよぎったのはあの文字のことだ。
今、オレが変身してしまっているのは、レベルアップによるものではないか、と。
そこで仮説を立てた。
腹筋を鍛えることでレベルが上がったのであれば、その効果はなんなのか?
今の状況、そして変身する前に行っていたことから察するに、
『腹筋に力を込めると女に変身する』ことができるようになったのではないか?
であれば、この状況を回避する手段は一つだけだ。
オレは、下腹部に込めていた力みを意識的に解いていった。
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結果は、成功だった。
中を覗いてきたヤツが見たのは、男のオレが便座に座る姿だった。
その後の話なんてのは、普通の男子便あるあるだから割愛しておく。
そんなことよりも重要なのは、オレの身に起きた異変の方だ。
オレは家に帰るとすぐに部屋の鍵を閉め、鏡の前に立つ。
そして腹筋に力を込める。
すると案の定、オレの身体は変化を始めた。
身体の線がひとまわり細くなり、胸には重みが、股間には喪失感が生まれる。
短く切りそろえていた髪の毛が、滝が流れるかのように腰の辺りまで伸びる。
服装も男子用から女子用の制服へと変化した。
しかしそんなことよりも、一番の変化はやっぱり顔だ。
何の面白みも無い平凡顔から、切れ長な目が特徴的な女の子の顔になっているじゃないか。
思わず顔がほころぶ。
なんたって、今まで腹筋をしないと見ることのできなかったものが、手の届く位置に来ていたのだから。
鏡の中の女のオレの笑顔は、とても輝いて見えた。
まあ、一瞬だけだったけどな。
なぜかって?
腹筋に力を込めた後に笑ってみろ。
それが答えだ。