大いなる跳躍(ショートショート50)
林選手はポールに両手をそえると、肩で幾度となく深呼吸を繰り返した。
ポールを握って前方にかかげる。
バーに向かってスタートする。
ポールの先が地面にささる。
足先から宙に舞い上がる。
ポールが大きくしなる。
体がさかさまになる。
足がバーを越える。
体がひねられる。
バーをこえる。
体が落ちる。
やったあ。
成功だ!
えっ?
ん?
林選手に競技審判員たちが走り寄った。
どうしたというのか?
マット上の林選手を捕まえ、両側から腕をつかんで連れていく。
「おい、林!」
コーチが林選手のもとにかけ寄り、なぐさめるようにやさしく肩を抱いた。
「ここは走り高跳びだ」
「えっ?」
林選手が振り返る。
バーの高さは二メートル三十センチ。
「なあ、帰ろう。おまえは棒高跳びに出場して、早くに予選落ちしたんだよ」
「でもオレ、跳びたいんだ!」
林選手はポールをつかむと、隣の競技場に向かって猛然と走り出した。
ポールを握って前方にかかげる。
踏切板に向かって走ってゆく。
ポールの先が地面にささる。
足が空に向かって伸びる。
ポールが大きくしなる。
体が前に飛んでゆく。
両足が前方で並ぶ。
両腕が振られる。
砂に着地する。
違反はなし。
世界記録。
やった!
えっ?
ん?
林選手に競技審判員たちが走り寄った。
どうしたというのか?
砂上の林選手を捕まえ、両側から腕をつかんで連れていく。
「おい、林!」
コーチが林選手のもとにかけ寄り、なぐさめるようにやさしく肩を抱いた。
「ここは走り幅跳びだ」
「えっ?」
林選手が振り返る。
そこにはバーがなかった。
「さっきも言っただろ。おまえはな、棒高跳びに出場して、早くに予選落ちしたんだよ」
「でもオレ、跳びたいんだ!」
林選手はポールを握りしめ、隣の競技場に向かって猛然と走り出した。
ホップ!
ステップ!
ジャーンプ!




