キミちゃんと彼女のずれていく雪の見え方。
あ、初雪。
外を見て、無感動にそう思う。
そういえば、雪にワクワクしなくなったのはいつからだっただろうか。
昔は、美しい特別な何かが降ってきているように感じていたのだけれど。
今は。
「まるでホコリが降っているみたいだ」
え?と隣にいた子が聞き返す。
「あぁ。雪のこと、だね。そうでしょう?キミちゃん」
「うん。よく分かったね」
私は頷いた。
彼女は私のことを『キミちゃん』と呼ぶ。
私の名前には『キミ』という言葉なんていっさい入っていないのにも関わらず、彼女は私をそう呼ぶ。
「雪をホコリに例えるだなんて。キミちゃんは、ロマンチストだねぇ。ふふ」
「そうかな?夢がない、ってよく言われるけど」
「そんなことないじゃないかー。キミちゃんが言いたいことはさ。お空の上にいる天上人たちが大掃除していて、地上にホコリを落としてるって、そういうことでしょう?なんたるメルヘン!アタシは心が震えたよ」
「…………」
この子は、ずれている。
感覚とか価値観、思考回路、感情、そういうもの全てが私とかけ離れている。
ああ。
絶対に、私たちは分かりあえないというのに。
分かりあえるはずがないのに。
彼女は当然であるかのごとく『そうでしょう?』と同意を求める。
だけど、それでもいいかな。
彼女が見ているのは、あくまで『キミちゃん』で。
決して私などではない。
だから、私は頷く。
否定も批判も非難もせずに。
ただただ、彼女に同意する。
「キミちゃん、聞いてる?」
「うん、聞いているよ」
「あ、雪を食べてる子がいるよ。キミちゃん」
「本当だ」
小学生の男の子が口を開いて、空を仰いでいる。
「お空のホコリは美味しいのかな?きっと美味しいに決まっているよね。七色の味がするんだ。そうでしょう?」
「うん、きっとそうだ」
美味しいわけがない。
七色の味がするわけがない。
「楽しそうだねぇ、キミちゃん。アタシはとても羨ましいよ。いっそ外に出てみようか。だけど寒いのは苦手なんだ」
「そっか」
私には、その少年がとてつもなく滑稽に見える。
死にそうな金魚のように、パクパク口を開いて。
口の中に入るのは、僅かな冷たさだけ。
何一つ満たされないというのに。
「ねぇ、キミちゃん」
「ん?」
「キミちゃん」
「なぁに?」
「なんだか、アタシ楽しくなってきたよ。きっと雪を見るたび愉快な気持ちになるよ。キミちゃんのおかげだねぇ。ふふ」
「そう」
私はきっと、雪を見るたび切なくなる。
私の、この何ともいえない真っ暗な気持ちを。
君にだけは誰よりも分かってほしいのに、決して伝わらない。
その事実をこの雪は思いださせるのだろう。
「あ。大掃除が終わったみたいだよ」
雪が、やんでいた。
「残念だねぇ。アタシはちょっぴり寂しいよ。キミちゃんも、そうでしょう?」
「もちろん」
私はすごく、ほっとした。
意味分からんデス。
はい。
終わりが見えないから強制しゅうりょーう!
でも、この二人なんか好きなので、気が向いたらまた短編でだすかも。