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「サプラ! トールが戻って来たって!?」
「あぁ、そうみたいですよ。その話で、城内は持ちきりです。朝から何人に聞かれたことか」
ドアを蹴破る勢いで、執務室に入って来た弟ウルドに、苦笑いしながら、サプラは答えた。
(足音で誰かは分かっていましたが、面会の予定はなかったはず。)
書類に目を通しながら、獣人国の宰相サプラは将軍ウルドに視線を向けた。
(図体は大きくなっても、頭の中は子供のままで困りますね。さぞや副将軍も苦労していることでしょう)
ウルドのサプラに対する態度は幼い頃から全く変わっていない。
ウルドも将軍という軍の要職に就いているはずなのに、自由で奔放だった。
「なんでも、パーティーを追い出されたとか」
「ほら見ろ! だから人間の国なんかに行くのは反対だあったんだ! ずっと俺のところで働けって言ってたのに!」
兄弟の反対を押しきり、人間の国に行って冒険者になったトールの帰国は、兄弟間で話題になっていた。
今にもトールを軍に連れ帰りそうな勢いで憤慨するウルドに、サプラは制止した。
「トールの性格は軍隊に入るには優しすぎます。それに、少し滞在したら、また人間の国に戻るらしいですよ」
「まったく、人間の何がいいんだ! 心配で夜も眠れんぞ!」
獣人は人間の国だと劣等種の扱いを受けるが、それでもトールにとって夢のある場所なのだろう。
獣人国には冒険者という職業は存在せず、軍隊に入るのが一般的だが、冒険者に比べると自由度はない。
「トールは冒険者という職業に憧れてますからね。入隊は望まないでしょう」
「それなら俺も冒険者になる! そうしたらトールの旨い飯が食えるだろ! お前も来い、サプラ!」
「何を言っているんですか、ウルド将軍? 私は宰相ですよ? 私は職務を放棄する気はありません」
しかしウルドは国王である父親に掛け合って「可愛い子には旅をさせよと言うもんな」と丸め込んだ。
「サプラ。すまないが、ウルドの暴走を止められるのはお前だけだ」
「……ウルドを野放しには出来ないですもんね。間違えると外交問題になりそうですし」
と完全に巻き込まれる形で宰相を辞職し、冒険者になることが決定された。




