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憧れだった冒険者になって、数年が経った。
その間、ずっと荷物持ちで、それ以外のことをさせてもらえなかった。
「トール。明日からは来なくていいぞ」
「えっ……? ど、どうして……!?」
いつかこんな日がくるかもしれないと思っていた。けれど、認めたくなくて、あるはずもない希望に追いすがってしまった。
「察しが悪いわね! そんなんだから、追い出されるのよ、この役立たず!」
キャハハ! と笑いながら、最近パーティーに加入した魔法使いに罵倒された。
「荷物持ちは、どうするの? 明日の準備も終わっているのに……」
しかし、愚かなことに、それでもまだ諦めきれなかった。
トールは獣人で、大多数の獣人がそうであるように、魔法を使えず、あまり才能がないのか身体強化のスキルぐらいしか覚えられなかった。
獣人を好んでパーティーに入れる人間は少ない。入れるとしても獣人の奴隷を入れるパーティーが殆どで、その扱いも悪かった。
「シンディが収納スキルを覚えたから、荷物持ちは必要なくなったんだよ。それに、高ランクダンジョンを狙うには、お前のレベルが不足しているんだ」
荷物持ちは戦闘に参加出来ないから、経験値を得ることはできない。
荷物持ちは挑戦するダンジョンや依頼の難易度によって使い分けるのが定石だった。
「そう……なんだ……」
「荷物持ちなら、他のパーティーでも募集しているから」
トールも、何もしていなかったわけではいなかった。積極的に雑用を進んでやっていたし、数少ない戦闘スキルを磨いて仲間の力になろうと努力していた。
だが、それも無駄な努力だったのかもしれない。
「トール。次のパーティーが決まるまで時間がかかるかもしれないから、これやるよ。大事に使えよ?」
手渡されたのは、1ヶ月は宿に泊まれるだけの銀貨が入った革袋だった。
「リーフったら優し過ぎない? 迷惑料をもらってもいいぐらいなのに!」
シンディの言葉にリーフは苦虫を噛み潰したような表情をした。
「……そう言うな。俺がBランクになれたのも、トールのサポートがあったからだ。これから行くダンジョンは難易度が上がる。荷物持ちを守りながら行くのが難しいんだ」
リーフの瞳は揺らいでいた。瞳の奥に見え隠れする優しさに、トールはため息をついた。
(リーフも本当は追い出したくなかったのかもしれない……)
トールのレベルは低いが、リーフのパーティーに入ってから、それなりに上がっている。
パーティーメンバーの目を盗んで、こっそりリーフが瀕死の魔物を譲ってくれたからだ。
そんなリーフだからこそ、トールも付いていったのだ。
「……今まで、ありがとうございました」
もっと一緒に居たかったが、これ以上長居するとリーフに迷惑がかかる。
それはトールにとって、本意ではなかった。
「次のパーティー決まったら、教えてくれよ」
「はい」
リーフはトールにとって、人間で初めて出来た友人だった。
涙を堪えながら、トールはリーフと手を握って、その場を後にした。
「これからどうしようかな」
何をするわけでもなく、トールは宿の天井を見つめ続けた。
心配しているリーフのためにも、次に所属するパーティーを決めないといけないが、獣人というだけで門前払いのパーティーは多かった。
「故郷に戻ろうかな……」
今まで誰にも言ったことはなかったが、トールは獣人国の継承順位のある王子だった。
とはいっても両親が仲が睦まじ過ぎて、毎年のように子供が産まれるため、名前を覚えきれないほど兄弟姉妹がたくさんいた。
トールは継承順位は10位で、能力も低いため、王位に就く可能性は殆どなかった。
「リオン、ジョアン、アイン、バーバラ……元気にしてるかなあ」
つい先日も兄弟から手紙が届いた。
また今年も兄弟が生まれて、しかもその赤子に勇者の素質があるかもしれないと、お祭り騒ぎらしい。
「たまには顔を見せに戻ろうか。生まれたばかりの兄弟も見てみたいし」
そう思うと、居ても立っても居られず、トールは意を決して手早く荷物をまとめると、帰郷した。




