表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シングルマザーが転生した冒険者は女神様でした!――猫と娘と世界を救う物語  作者: 織田珠々菜
戦闘準備編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

83/116

81話 魔法訓練

 魔法訓練所の大きな天窓から、柔らかな朝光が差し込んでいた。

 積まれた魔道書、棚に並べられた魔道具、ひんやりとした石床――

 どれも生徒たちの緊張を静かに映している。


 メリノエとマカリアは、互いに向き合って影を見下ろした。


「ねぇ、マカリア。私たち、影を操る魔法も使える気がするんだけど……」


「私も思った! この前、タナトスが使ってたよね。あの“影の布”みたいなやつ」


「そうそう。影に潜ったり、形を変えたり……

 使えるようになったら絶対便利だし、戦闘の幅も広がるわ」


「うん。やってみよう」


 二人の影が、床に濃く広がる。

 メリノエが手をかざすと、影が震えるようにゆらりと動いた。

 マカリアも同じように手を伸ばし、水の魔力をほんのわずか影に混ぜていく。


「……いい反応ね」


 アテナが彼女たちの背後に立ち、慎重に観察していた。


「影を利用する魔法は、闇属性の応用。二人の魔力なら扱えるはずよ。

 ただし――影は“意志”を持つと感じるほどに不安定になるわ。

 気を抜くと逆に飲まれる」


「……ひえ、それは怖いわね」


「けど、やれるだけやるよ。今は強くなるしかないもん」


「その意気よ。じゃあまず、影の形を変えてみましょう。小さく、そして細く」


 二人は深呼吸し、集中し始めた。


 一方エレニは、静かな空間の片隅で杖を握りしめ、

 小さなつぼみに魔力を注いでいた。


(ゆっくり……ゆっくり……。

 魔力を“流す”んじゃなくて、“時間を少し押す”感じで……)


 花弁が震え、ゆっくりと開く。

 次の瞬間――ふっと色が褪せ、しおれ始める。


(今度は逆。戻して、吸収して……ゆっくり……)


 枯れかけた花が再び色を取り戻し、つぼみの状態に戻っていく。

 生き物の「時間」が、彼女の魔力に呼応して振り子のように揺らいだ。


「エレニ、その調子よ。けれど無理は禁物。時間魔法は発動するほど、

 あなたの体内の“時間感覚”が狂う。時間酔いするわ」


「はい、大丈夫です」


(……特定の物や生き物。小規模の範囲なら、時間を扱える。

 でも、世界全体や場所そのものの“時間”には触れられない。


 クロノスが水晶を使ってアカデミーの時間を歪められたのは、

 あの水晶自体が時間の結界を張る装置だったから……)


(私ができるのは、もっと小さなことだけ。

 それでも――できる限り戦えるように、備えなきゃ)


 エレニは再び杖を構える。

 額に薄く汗がにじむが、目には確かな決意が宿っていた。


 その時――


「……っ!」


 メリノエの影が不自然に伸び、まるで触手のように床を這った。


「ちょっ……わ、私、こんなに伸ばしたつもりないんだけど!?」


「マカリア、影が魔力を吸ってる! すぐに制御を!」


「え、えぇ!? ちょっと待って、落ち着け、私の影ーー!」


 影がぴたりと止まったのは、アテナが素早く杖を振り、薄い光の結界を張ったからだった。


「ふたりとも、焦りすぎ。影の魔法は“闇を広げすぎる”と制御を失いやすいの。

 今は限界点を理解するところからよ」


「は、はい……!」


「ごめんなさい……!」


 アテナは微かに笑う。


「大丈夫。才能がある証拠よ。時間をかけて仕上げれば、きっと戦力になる」


 エレニも二人を見つめながら、胸の奥に静かに誓いを立てた。


(みんな、頑張ってる……。私も負けていられない)


 魔法訓練所の上空では、天窓から差す光がゆっくりと角度を変え、床の上に伸びる影の線を少しずつ移動させていた。


 アテナが結界を解くと、影はようやく本来の形へと収まり、空気に張りつめていた緊張がほぐれていく。


「……ふぅ。さすがにちょっと怖かった……」


 メリノエが胸を押さえ、肩を落とす。


「でも、手応えはあったよね。ほんの少しだけど、“影が応える”感じがした」


 マカリアは影をつま先で軽く踏み、感触を確かめるように呟いた。


「その感覚を忘れないで。影魔法は“引き出す”力より、“手を離す勇気”が必要になるわ」


 アテナの言葉に、二人は顔を見合わせ、改めて真剣に頷いた。


 その時――訓練所の扉が静かに開く。


「お嬢様、そろそろ休憩を挟まれてはいかがですか?」


 茶トラ色の柔らかな毛並みを整え、完璧な礼を添えて現れたのはリオだった。

 猫らしいしなやかな動きと、紳士の立ち居振る舞いが奇妙な調和を生んでいる。


「リオ……そうだね」


 エレニは微笑みながら振り返ったが、杖を握る手がまだ微かに震えていた。


 リオはその揺れを一目で察し、穏やかに言う。


「時間魔法の訓練は、心身へ大きく負担がかかります。

 無理を続ければ、魔力量の測定にも影響が出るでしょう」


「魔力量……」


「はい。次の実技試験では、魔力の総量と“質”が測られます。

 エレニ様の魔力はとても精密で、美しい流れをしている。

 だからこそ、焦らず整えることが重要なのです」


 その声音はいつもと変わらず落ち着いているのに、少しだけ心配が滲んでいた。


 エレニはその優しさに息を吐き、杖を下ろす。


「……うん。ありがとう、リオ」


「いつでもお傍に。お嬢様の魔力の管理は、私の大切な務めですから」


 そう言って微笑むと、リオはふわりと尻尾を揺らし、

 柔らかい魔力の風をエレニの周囲へ広げた。


 それは彼特有の“静穏魔法”――魔力の流れを落ち着かせ、

 精神に休息を与える魔法。


 メリノエとマカリアが見とれるほど、暖かで澄んだ魔力だった。


「……すごい。魔力が、落ち着いていく……」


「ケット・シーの補助魔法って、こんなに綺麗なんだ……」


 リオは小さく会釈した。


「さぁ、お嬢様。冥界組のお二人も。短い休憩を」


 アテナもそれに頷く。


「良い判断よ、リオ。ここらで全員、小休止としましょう」


 魔法訓練所に、静かな安堵の気配が広がった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ