80話 リオの魔力測定
魔力測定用の水晶が並ぶ静かな部屋に、リオは背筋を伸ばして座っていた。
「……ふぅ。いよいよ、私の魔力がどれほどのものか明らかになるのですね」
少し緊張を見せつつも、リオは胸を張る。
測定を担当するアテナは、少し笑みを浮かべた。
「リオ、準備はいい? これはただの測定よ。痛くも怖くもないわ」
「もちろんです、アテナ先生。
エレニ様のお役に立てるのであれば、どのような試練も喜んでお受けいたします」
リオは尻尾を優雅に一振りして、水晶の上に手をかざす。
「では、測定を始めるわ。魔力を“押し出す”意識で、できる範囲でやってみて」
「かしこまりました。……では、失礼して」
瞬間――。
台座の上の水晶が緑から白へとふわりと淡い光を灯した。
その輝きは、ケット・シーの魔力としては小さなものになるはずだった。
しかし……
「……おや?」
水晶が震え、白い光が一気に強まった。
「え、えっ? リオ、魔力押しすぎじゃ――」
アテナが眉を上げた。
これは、通常の人間魔法使いでも中級レベルに到達している証。
「嘘……リオって、そんなに魔力あったの……?」
マカリアが口をぱくぱくさせる。
「どうやら私にも、微力ながら“お役に立てる可能性”があったようですね。
エレニ様に仕える者として、誇らしく思います」
「リオ……すごい……!」
エレニが目を輝かせると、
リオは胸に手を当て、優雅に一礼した。
「エレニ様の傍らに立つ以上、未熟でいるわけには参りませんので」
「リオ、すごいわよ。ケット・シーとしては、かなり高い魔力量よ」
アテナが水晶をじっと見つめたまま言葉を止めた。
アテナは、水晶の光の波形をもう一度確かめるように指先でなぞった。
緑と白い光の中に、わずかに黒い揺らぎ――影の気配が混ざっていた。
「――間違いない。風、光、そして闇。
リオ、あなたには“三属性の適性”があるわ」
「さ、三つ……!?」
メリノエとマカリアが同時に声をあげる。
「ケット・シーで三属性って、かなりレアだよ……!?」
「ていうか闇属性って私たちと同じ……ううん、むしろ私たちより安定してる……!?」
興奮してる二人の横で、
リオは、恐縮しつつ
「大げさですよ……」
「大げさじゃないよ!」
「すごいよリオ! その才能!」
エレニは、ただじっとリオを見つめていた。
驚きと喜びがゆっくり胸に広がっていく。
「リオ……本当に、そんな力が……?」
「はい、エレニ様」
リオは静かに立ち上がり、エレニに向かって深く一礼した。
茶トラの尻尾が優雅に弧を描く。
「私は、エレニ様に拾っていただいた日から、
いつか必ず……“力”としてお仕えしたいと願っておりました。
その一端をお見せできたこと、心より光栄に存じます」
「リオ……」
エレニはそっと胸元を押さえる。
言葉にならない温かさがこみ上げてきていた。
アテナが穏やかに続ける。
「闇の適性は、単なる攻撃だけじゃないわ。
影を渡る、気配を消す、護衛に特化した技も多い」
「つまり……エレニ様のお側を守るには、最適ということですね」
リオの金の瞳が柔らかく細まる。
「ああ、もう……リオかっこよすぎる……!」
「惚れそう……いやもう惚れた……!」
メリノエとマカリアが勝手に騒ぎ始める。
エレニは少し恥ずかしそうに笑った。
「リオ、これからも……一緒に頑張ろうね」
「もちろんでございます、エレニ様。
影の中でも光の中でも、どこでも、お側に」
その瞬間――
魔法陣の光がふっと揺れ、ひときわ強い風が部屋を駆け抜けた。
風属性が、リオの魔力に応えるように震えたのだ。
「……やっぱり普通のケット・シーじゃないわね」
アテナがぽつりと言った言葉が、部屋の空気を引き締める。
(リオ……こんなに、強かったんだ……)
エレニは心の奥でそっと思った。




