79話 備えあれば
世界樹の回復が始まってから、五日目。
(――世界樹の花が咲くまで、あと二日。
何が起こるかわからない。けど、立ち止まっている暇はない……
今できることを、一つずつ。)
そんな思いを胸に、
世界樹調査隊だった仲間たちが寄宿舎エントランスに集合していた。
「君たち学生が、神々の戦に加わる必要はない。
これは本来、神々の領域の問題だ」
アイアスが静かに言う。
「そうよ。あなたたちを巻き込むなんて、
本来あってはならないことなの」
アテナも憂いを滲ませる。
しかし、生徒たちは顔を上げ、強い目で応じた。
「そうだとしても……備えあれば、ですよ。
何もしないで待つより、できることを準備しておきたいんです」
エレニの言葉に、全員が深くうなずいた。
「まったく……。
せっかくの休暇だっていうのに、物好きな子たちね」
アテナが呟く。
「で? みんなは、どんな準備をするつもりだ?」
アイアスが腕を組む。
「私は、ストス先生と魔道具の研究を進めたいです。
それと、癒しの魔法の強化と時の魔法が使えるかどうか、
確認しておこうと思います」
エレニが真剣な顔で言う。
「時の魔法……クロノスに備えるってわけね」
アテナが表情を引き締める。
「はい。いま出来る最大の対策を」
「わたしは、魔力測定を!
もし魔力があるなら、魔法をちゃんと鍛えたいです」
リオが胸に手を当てて決意を示す。
「今からの習得は、かなり集中が必要よ? 本当にやる覚悟はある?」
アテナが確認する。
「……もちろんです」
「俺は剣術だな。短剣だけじゃなく、
剣の型と防御の動きももっと鍛えたい」
ジーノが腰の剣に触れる。
「それなら、ジーノとディオと組むのが良いわね」
アイアスが提案すると、ジーノとディオが拳を合わせた。
「任せろ。徹底的にしごいてやる」
「ははは! こっちこそ、手加減はしないから覚悟しろよ!」
「私は闇魔法の他に、火属性も強化するつもり。
マカリアは水属性の強化よね?」
メリノエが言うと、マカリアがこくりとうなずく。
「うん。攻撃も支援も、できるようになりたい」
教師陣も負けてはいなかった。
「生徒たちがこれだけ熱心なのに、教師もうかうかしていられないわね」
アテナが微笑む。
「俺も剣の稽古に混ざるつもりだ」
アイアスが腕を回す。
「魔法の指導は私に任せて。やるからには、全力で行くわよ」
アテナが静かに告げた。
寄宿舎のエントランスに、緊張と決意が同時に満ちていく。
――世界樹の花が咲く、その日を迎えるために。




