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シングルマザーが転生した冒険者は女神様でした!――猫と娘と世界を救う物語  作者: 織田珠々菜
オリンポス会議編

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73話 クロノスとアルプの裏切り

 ――上層階、オリンポス会議室。


 大理石の柱は空へ向かって伸び、まるで雲を支えているかのようだった。

 天井には金箔が星座のように散り、蒼い魔力の光が静かに脈動している。


 その中心で“円卓”は、神々の威光そのもののように重々しく輝いていた。


 ただ――ストスが用意していた新しい玉座だけは、まだ到着していなかった。


 そんな中、冥界のメリノエとマカリアが襲撃されたという報せが走り、

 会議室は重いざわめきで満ちていた。


 そのざわめきの最中――エレニの魔導通信に、小さな声が届く。


 《エレニ、聞こえる?》


 《マカリア!? 無事なの?》


 《心配してくれてありがとう。私たちは大丈夫。お父様の作戦、成功したって伝えて。

 それと……今回の件、ヘラ様が関わってた……》


 《ヘラ様が……?》


 《うん。詳しくはあとで。いまは会議を頑張って》


 《……二人とも無事で本当に良かった》


 《それじゃ、またね》


 通信が途切れると同時に、エレニは深く息をついた。


「ハデス様。マカリアより連絡がありました。二人とも無事で……作戦は成功とのことです」


 冥界王は静かに頷き、蒼炎の瞳を細める。


「冥界の掟はひとつ。

 我が妻や娘に手を出した者――記憶すら残さず、闇へ溶かす」


 低い声には冷たさではなく、凄烈な“家族への愛”が宿っていた。


「それが冥界王の務めだ」


「それから……今回の件にヘラ様が関わっていたとのことです」


 その瞬間、会議の鐘が澄んだ音を響かせた。


 神々が姿勢を正し、空気が一気に締まる。


 黄金の衣をまとい、孔雀の羽を冠に飾ったヘラが姿を現した。

 その歩みには威厳があったが、その奥に微かな焦りが潜んでいた。


「全員揃ったな」


 ゼウスの重い声が響きわたり、円卓にはアカデミーの学園長、教師、そして神々が並んだ。


 アテナが席を立つ。


「それでは、オリンポス会議を始めます。

 本日はお初に会う方も多いでしょう。まずは紹介から」


 ざわめきが広がると、アテナは軽く杖を鳴らして静粛を促す。


「静かに。――エレニ、前へ」


「……はい」


 緊張で心臓が跳ねるのを感じながら、エレニは円卓の中央へ進んだ。


「彼女が、ゼウスとレダの娘、エレニです。

 私の弟子として魔法を学び、現在はアカデミーの学生。

 そして――“雷”の継承者です」


 どよめきが起こる。


「オピオタウロスの排除、世界樹の調査隊での働き……いずれも彼女の功績です」


「なぬ? オピオタウロスを倒しただと?」

 ポセイドンが目を丸くした。


「ケルベロスを手なずけるほどだ。あり得る話だ」

 ハデスが淡々と付け加える。


 ヘラはわずかに視線をそらした。


 アテナは静かに姿勢を正し、ヘラへと向き直る。


「では、本題に移ります。

 オピオタウロスが現れた理由――封印が破られていたからです」


 神々が息を呑む。


「封印を壊し、ニーズヘッグに果実を与え、世界樹の根をかじらせた者。

 冥界王を利用し、フヴェルの泉を封じた者。

 クロノスを脱獄させ、生まれなかった“セレナ”を兵器として扱った者

 メリノエとマカリアに手を出すように、指示した者」


 言葉は淡々としていたが、そこに宿る追及の鋭さは隠せない。


「ヘラ様。これらすべて――どのように説明なさいます?」


 重い沈黙が流れ、神々はヘラを見つめた。


 ヘラはゆっくりまつ毛を伏せた。

 その姿は美しく――そして、壊れそうだった。


「……アテナ。あなたは誤解しているわ」


 静かな声だったが、内側では燃える何かが揺らいでいた。


「私は“オリンポスの母”として未来を守ろうとしただけ」


「未来?」

 アテナが眉を寄せる。


「そうよ。ゼウスの放任主義では世界は壊れる。

 若い神々は滅びの渦に飲まれる。私は、それを防ぐために――」


「だから封印を破壊し、冥界を欺き、世界樹を傷つけ、クロノスを解き放ったのですか?」


 アテナの追及が重く響く。


 ヘラの瞳が揺れた。


「……必要だったのよ。すべては“試練”のため」


「試練?」

 ポセイドンが身を乗り出す。


「誰への試練だ、ヘラ」


 ヘラは小さく息を吸い、エレニを見つめた。


「――あなたよ、エレニ」


「……え?」


 空気が一変した。


「あなたは“雷”の継承者。

 世界を導く器を持つ。

 けれどただの少女のままでは頂点には立てない」


 その声音は優雅でありながら、狂気の匂いがした。


「だから私は“環境”を整えたの。

 あなたがゼウスを超える存在になれるように」


(わたしを……育てるため?)


 エレニが息を呑むと、アテナが即座に切り捨てた。


「それは“育成”ではなく――“破壊”です」


 怒りを抑えつつ、ハデスが低い声で問う。

「私の娘達に傷をつけようとしたのも、試練だというのか」


「私は、彼女達にふさわしいと思った相手を紹介しただけ。

 危害を加えろなんて一言も言ってないわ」


 会議室が緊迫で満ちる。


「封印を壊し、冥界を欺き、世界樹を脅かし、クロノスを解放する。それを未来を守ると?

 冗談にもなりません」


 氷の刃のような視線がヘラを射抜く。


「あなたがしたのは――世界そのものの破壊です」


 ヘラは唇を震わせ、ゼウスを見つめた。


「ゼウス。何か言いなさいよ」


 ゼウスは黙ってヘラを見ていた。

 怒りでも憎しみでもなく、深い疲労と悲しみの色を宿して。


「……ヘラ。私はもう、お前のやり方を見過ごせぬ」


「どうして!? あなたのためにしたのよ!

 あなたの娘たちのために、オリンポスのために!!」


「違う。

 お前が守ろうとしたのは“お前自身の理想”だ」


 ゼウスはゆっくり立ち上がる。


「俺は父として、エレニの歩む道を守りたい。

 だが、“試練”と称して彼女を弄ぶ者を許すつもりはない」


 ヘラは息を呑んだ。


 アテナが締めくくろうとした――その時。


 ガンッ!


 会議室の扉が大きく開いた。


「――遅くなりました。ヘラ様の“玉座”を、お持ちしました」


 ストスが姿を現す。


 黄金と深紅に彩られた荘厳な玉座――

 だがその内部には“拘束と浄化”の魔具が組み込まれた“鏡の牢”。


 ヘラは玉座に目を奪われ、わずかに微笑んだ。


「……美しいわ。私のために生まれた玉座ね」


「ええ。あなたを“映すため”の玉座です」


 ヘラは疑うことなく玉座へ歩み寄り――座った。


 瞬間。


 ガッ――!!


「……っ!?」


 黒銀の鎖が足元から現れ、絡みつき魔力を吸い上げていく。


「な、何なの!? これは……!」


 ヘラの神威が霧のように薄れていく。


 ストスは冷徹な職人の顔で告げた。


「これは玉座ではありません。

 あなたの魔力を封じ、乱れた神意を浄化する“鏡の牢”です」


「拘束……!? 私を封印するつもりなの!?」


 ヘラは必死に叫ぶ。


「アルプ……! アルプ!

 助けなさい!! あなたは私を裏切らないでしょう!?」


 影に呼びかけるが――返事はない。


「クロノス!! あなたも……約束したでしょう!

 私に力を与えると……っ!」


 しかし、闇から返ってきた声は冷酷だった。


『――お前はもう用済みだ、ヘラ』


「…………クロノス!」


『お前の望みはゼウスへの復讐。

 だが、私が欲するのは世界征服の席だ。

 アルプは最初から私の配下……お前の味方などではない』


「そ……んな……」


 クロノスの影は完全に消えた。


 ヘラが信じた“救い”は、初めから幻だった。


 魔力も、支えも、誇りも失われ――

 ヘラはただの“一人の女”へと戻っていくのであった。

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