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シングルマザーが転生した冒険者は女神様でした!――猫と娘と世界を救う物語  作者: 織田珠々菜
世界樹回復期編

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71話 冥界拉致事件

 冥界菓子店アンダーヴェイル――


 冥界特有の淡い燐光を放つランタンが、店内の影を静かに揺らしていた。

 ガラスケースには、ブラッディベリーのタルトや、

 霜の宝粉をまとった冥界マカロンが整然と並び、

 上品な甘い香りがゆるやかに満ちている。


 メリノエが目を輝かせて呟いた。


「いつ来ても……本当に目移りしちゃう」


 マカリアは頬に手を当て、穏やかに笑う。


「冥界での楽しみの一つだものね。

 ……エレニたちも連れて来たかったけど」


「だよね~。あの時はバタバタしてたし仕方ないか。また今度絶対」


「うん、絶対」


 メリノエはすぐに気持ちを切り替え、ケースを覗き込みながら声を弾ませる。


「で、今回のおみやげは何に――」


 その時だった。


 背後から、影が二つ、気配もなく近づいてくる。


「やぁ、お嬢さんたち」


 メリノエとマカリアが振り返ると、にやついた二人の男が立っていた。

 どこか“生者の匂い”を残した、不自然な異質感。


「こんにちは。メリノエとマカリア……だよね?」


 メリノエは警戒するように眉をひそめた。


「えぇ……そうですけど、どちら様ですか?」


「俺は、ペイリトオス」

「俺は、テセウス」


 名乗る声には妙な自信がこもっており、歓迎されて当然と言わんばかりの態度だった。


 マカリアが小さく目を細める。


「……冥界の方ではありませんよね?」


「あぁ俺は、王イクシオンの息子」

「俺は、ポセイドンの息子だ」


 メリノエの表情がわずかに硬くなる。


「だから?」


 ペイリトオスが軽口を叩くように笑った。


「冥界の娘たちって、ほんと冷たいな。

 実はさ、ヘラ様から紹介されて来たんだ。“結婚相手にどうか”ってさ」


「え……?」


 メリノエとマカリアの目が、明らかに冷えた。


「……そんな話、聞いてません」

「ヘラ様……どうして……?」


 テセウスは肩をすくめ、大げさに笑った。


「まぁまぁ。俺たちと結婚すれば、こんな薄暗い冥界生活ともおさらばできるぜ?」


「こんな所……?」


 マカリアの瞳に怒りが閃く。


「冥界を侮辱するような方たちに、用などありません。行こう、メリノエ」


「うん。行こ」


 ――だが。


「おっと。まさか、このまま無事に帰れると思ってないよな?」


 二人が左右から立ち塞がる。


「どういうこと……?」

「こんな綺麗なお嬢さんたちを逃す? ないない」


 無遠慮な手が伸びる。

 メリノエが身を引くが、マカリアの腕が掴まれた。


「ちょっと……やめて!!」

「離して!!」


 店主が慌ててカウンターから飛び出す。


「お客様、おやめください!!」


「うるせぇ。てめぇは引っ込んでろ」


 ペイリトオスが睨みつけると、店内の空気が一気に凍りついた。

 壁の魂灯が一つ、ぱちんと弾けるように消える。


「店を壊されたくなかったら、黙ってな」


 店主は悔しげに拳を震わせた。


「……お嬢様……」


「行くぞ。外だ」


 メリノエとマカリアは強引に外へ引き出される。

 テセウスが不気味な笑みを浮かべる。


 冥界の薄青い霧が揺れる中、

 メリノエとマカリアは路地裏へと無理やり追い込まれていた。


 冷たい冥界の石畳を踏む音が、嫌に大きく響く。


「さて……どっちから“味見”しようか?」


「まぁ、順番なんてどうでもいいけどな。逃げ場はねぇよ」


 ニヤつく二人の男。

 その声には欲望の色がはっきりと滲んでいた。


 マカリアが唇を噛む。


「……最低ね……!」


「おやおや、気の強いお嬢さんだ」


 男たちの視線がいやらしく近づく。


 その瞬間――


 メリノエがそっと、マカリアの手を握った。


「……マカリア。落ち着いて。合図したらすぐに動いて」


「……うん。わかった」


 メリノエの瞳に、冥界の闇が集まるように深い光が宿る。


 彼女の生まれながらの魔力――

 “冥闇めいやみ”に属する黒霧魔法。


 メリノエが小声で呟く。


「――《シャドウ・ブラインド》」


 ぱん、と闇が弾けた。


 路地裏の空気が急に歪み、

 黒い靄が爆ぜるように広がって――


 二人の男の視界を、一瞬で奪い取った。


「うっ……!?」「な、なんだこれ――視界が……ッ!」


 二人が慌てて目を擦るが、

 黒霧は視覚だけでなく、体内の魔力にも干渉して判断力を鈍らせる。


「マカリア!!」


 メリノエの叫びと同時に、

 マカリアは外套の内側から、通信機を取り出し耳に着ける。


 《ジーノ助けて!!》

 《マカリア!? どうした? 今、どこにいるんだ?》

 《冥界のアンダーヴェイル、メリノエと二人だけどペイリトオスとテセウスに襲われそうなの!》

 《え!?》

 《お願い!! 助けて!》

 《ハデス様は?》

 《いま、オリンポス会議》

 《くそ、エレニたちもだな……仕方ない俺からエレニに伝える

 悪い、転移魔法で行けるのがエレニか神々の誰かになってしまう》

 《うん》

 《助けが来るまで、がんばれ》


 通信が切れるとメリノエとマカリアは、目くらましの魔法の効果がある間

 三判官庁舎に向かって走り続けた。


 ジーノはすぐにエレニに通信を飛ばした。


 《エレニ! 聞こえるか?》

 《ジーノ、どうしたの?》

 《冥界でメリノエとマカリアがピンチだ!

 ペイリトオスとテセウスって奴に襲われそうだ!!》

 《え、ちょっと待って、何が起きてるの!?》

 《詳しくはわからないけど、とにかく助けないと!》

 《わかった、すぐにハデス様に伝える!》

 《頼んだぞ!》


 エレニは会議室の席を立ち、オリンポス会議にいるハデスに事態を報告した。


「――一体、何者が我が娘たちを傷つけようとするというのだ!」


 ハデスの声には、怒りが渦のように巻いていた。


「落ち着いてください。相手はペイリトオスとテセウスだそうです。

 まずは二人を救出することを――」


「……そうだな」


 ゼウスが眉をひそめ、声を荒げる。

「ペイリトオスだと? あいつの息子か!」


 ポセイドンも視線を鋭くしながら言った。

「テセウスもだと? 一体、何を企んでいる……」


 ハデスは軽く肩をすくめ、静かに答える。

「今回の件は私に任せてください」


 二人の神が一瞬視線を交わす。


「――あぁ、もちろんだ」


 ゼウスとポセイドンが短く応じた。


「エレニ、メリノエとマカリアに伝えてくれ。

 三判官庁舎で警備隊に助けてもらうように。

 それから、ペルセポネに忘却の椅子を用意し、その二人をもてなすように伝えろと」


「もてなす?」

「まぁ、後で分かる。ペルセポネが、聞けばわかる」

「わかりました」


 エレニは、ハデスに言われた通り通信機でメリノエに伝えた。


 会議室には再び静かな緊張が戻った。

 外界では、冥界の娘たちの危機が刻一刻と迫っている――。

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