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シングルマザーが転生した冒険者は女神様でした!  作者: 珠々菜
世界樹回復編

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65話 祝賀会準備

 学院の鐘が夕刻を告げるころ。

 中庭では祝賀会の準備が着々と進んでいた。

 宙に浮かぶ魔法のランタンが風に揺れ、夜空には光の花が咲いては静かに散る。

 学生たちの笑い声と、キッチンから漂う甘く香ばしい匂いが入り混じって、

 まるで小さな祭りのようだった。


 その賑やかさを背に、エレニは寄宿舎の自室の扉をそっと開けた。


「ふぅ……やっと一息つける」


 部屋の中は、すでに小さな舞踏会の様相を呈していた。

 ベッドの上には、色とりどりのドレスが幾重にも重なり、

 鏡の前にはアクセサリーが散らばっている。

 床にはリボンの切れ端や靴が点々と転がり、柔らかな香油の香りがふわりと漂う。

 その光景は、さながら少女達の戦場前と言った感じだ。


「おかえり、エレニ!」


 ぱっと両手を広げて振り向いたのはマカリア。

 白銀のドレスがふわりと舞い、淡い水色の光が部屋いっぱいに反射する。


「どう? お父さまに頂いた特製ドレス、“影の羽衣”よ!」

「……すごい。光を浴びるたびに夜空みたいに変わる」

「でしょ? 影って、案外ロマンチックなのよ?」

 くるりと回るマカリアの裾が月光のように揺れた。


 その隣で、メリノエは静かに髪を整えている。

 淡い黒紫のローブを脱ぎ、珍しく柔らかい色合いのドレスを纏っていた。

 白い花飾りが黒髪にひそやかに光を添える。


「メリノエ、そのドレス……自分で作ったの?」

「ええ。冥界の“月布”で作ったの。光を吸って、控えめに返す素材」

「……控えめなのに、見惚れるくらい綺麗」

「ふふ。ありがとう。でも、あまり見すぎないで。少し照れるから」


 エレニは二人の姿に微笑む。

「なんだか、学園の祝賀会というより“神々の舞踏会”みたい」


「そりゃそうよ。今日の主役はあなたたち三人なんだから!」

 マカリアがエレニの肩を軽く押し、鏡の前へと誘う。


「はい、あなたの分。ちゃんと用意しておいたわよ!」

 ベッドの上には、淡い緑に金糸が織り込まれたドレスが置かれていた。

 世界樹の光を思わせる、清らかな輝き。


「これ……私に?」

「もちろん! 世界樹を救った英雄だもの」

 メリノエも静かに頷く。

「あなたの“光”がみんなを導いた……それを形にしたかったの」


 エレニは少し戸惑いながらも微笑む。

「……ありがとう。じゃあ、着てみようかな」


 ――数分後。


「うわ……似合う!」

「ほんと、完璧。今日の主役は確定ね!」

「ちょ、ちょっと褒めすぎ!」

 頬を赤らめて手を振るエレニに、二人はくすくすと笑う。


 そのとき、ドアの外からノックが聞こえた。

「おーい、そろそろ会場集合の時間だぞー!」

 聞き慣れたジーノの声。


「まだ準備中ー!」

 マカリアが即座に叫ぶ。

「入ったら呪うわよー!」

「ええっ!? 了解! 廊下で正座して待機しますぅ!」


 三人は顔を見合わせ、思わず笑い声をあげた。


「ねぇ、レイも連れて行っていいかな?」

「もちろん!」


 籠の中で、小さな妖精のレイがすやすやと眠っている。


「この妖精ちゃん、レイって名前なのね」

「そういえば……三判官が言ってた言葉、思い出した」

「“エレニとリオとレイには、前世があった”って話?」

「だけど――ジーノがレテの水を飲んで、バタバタだったから忘れてたよ」

「黙っててごめん。前世のことなんて話したら、驚かれると思って」


「何言ってるの。私たち、冥界の住人よ? 前世なんて日常茶飯事だよ」

「前世の記憶があるのは、レダ様がレテの水を飲ませるの忘れたのかもね」

「そっか……」

 エレニは小さく息を吐く。

(正しくは異世界での前世だけど……それは……まぁいいか)


「あとね、冥界に行けて良かった。この子がレイだって確証できたし、

 メリノエとマカリアが居てくれて、本当に心強かった。

 二人とも、ありがとう」


「何よ、改まって」

「そうだよ、みずくさい!わたし達、友達でしょ」

「そうだけど、親しき中にも礼儀ありって言うでしょ?」

「え?それ、どこの言葉?」

「また前世でしょ~?ふふふ、でも、いい言葉かも」

「それに、世界樹が花を咲かせたら、彼女も目を覚ますんでしょ?」

「そうだよ!どんな娘か、楽しみだね」

「うん、楽しみね」

(……まさか“厨二病ギャル”だったなんて口が裂けても言えない……

 いや?そもそも“厨二病"って何?ギャル”って何?て話かも?)


 エレニが独り言をブツブツ言ってるが、二人には聞こえてないらしい。


「さぁ、行きましょうか」

「うん」

「ええ」


 寄宿舎の扉を開けると、夜空いっぱいに星々と光のランタンが瞬いていた。

 祝賀会の幕が――静かに、けれど確かに、上がろうとしていた。

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