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63話 アカデミーの光

 

 報告のため学園長室へ向かおうとしたその時――

 訓練場の方から、勢いよく突進してくる影があった。


「エレニ! リオ! ジーノ! 無事だったか!?」

 剣を手にしたまま、アイアスが駆け寄ってくる。


「はい、全員無事です!」

「世界樹の浄化機能も、完全に回復しました!」

 リオの声が弾み、ジーノも力強く頷く。


「ウルズ様、ベルダンディ様、スクルド様のご加護で、すべて解決です!」

 エレニの報告に、アイアスはようやく胸を撫で下ろした。


「そうか……本当に、よくやったな」

 安堵の息が漏れる――が、すぐに眉をひそめる。

「……ただ一つ、気になることがある」


「なんです?」

「ジーノ、お前――二日酔いで試練に挑んだって本当か?」

「えっ!? そ、それはその……いや、少しだけ、です!」


「俺は止めたんですよ!? 二杯までって言ったのに!」

 リオが慌てて弁明する。


「……え? 俺だけ悪者?」

「さぁねぇ?」

 エレニがとぼけた顔で笑う。


「でも、結果的に無事だったし――まぁ、よしとしましょう」

「よくねぇだろ……」

 アイアスは額を押さえた。


 ジーノは頭をかきながら小声で言う。

「……次からは自粛します」

「え?次も、あるの!?」

 エレニのツッコミに、リオが吹き出す。


 そこへ、柔らかな光を纏ってアテナが歩み寄った。

「よくやったわね、みんな。無事で何より」

 微笑みを向けると、アイアスが少し頬を赤らめた。


「……あ、はい、その……無事で良かったです」

「アイアスも落ち着いたみたいで良かったわ」

 アテナがくすりと笑う。


 ふとリオが空を見上げた。

「見てください! 世界樹が……生き返ってる!」

 学院の上空、巨大な枝葉が金色の光を放ちながらゆらめく。


「おお……本当だ!」

 ジーノが片手をかざしながら、感慨深げに言う。

「これで二日酔いも帳消しだな!」

「いや、全然違うから!」

 エレニが即ツッコミを入れる。


 アイアスはそんな三人を見て、静かに笑った。

「……まったく、無事で何よりだ」


 学院の鐘が鳴り、再生の光が三人を包んでいった。


* * *


「失礼します、学園長」

 扉を開け、三人は一礼する。


 机の前に座るメティス学園長は、柔らかな微笑みを浮かべていた。

 だがその眼差しは、相変わらず鋭い。


「うむ、よく戻ったな。――さて、試練の報告を聞かせてくれ」


「はい! フヴェルの泉の試練を無事に越え、ニーズヘッグの問題も解決です」

 エレニが一歩進み、凛とした声で答える。


「ニーズヘッグの歯のかゆみも治して、二度とかじらないと約束させました」

 リオの報告に、メティスが思わず目を細めた。


「……歯の、かゆみ?」

「はい。世界樹をかじっていたのは、ヘラに与えられた果実のせいでした」

「なるほど、そういうことか……」


 ジーノが真面目な顔で補足する。

「今後の再発防止策として、ハーブ入りのうがい薬を――」

「ニーズヘッグが、うがいなんてするわけないでしょ」

 エレニが慌てて突っ込む。


 メティスは思わず吹き出し、咳払いをひとつ。

「……ふむ。それも含めて、良い経験になったようだな」


 真剣な声に戻り、頷きを送る。

「三人とも、本当によくやった。世界樹の再生は、この学院にとっても希望だ」


「ありがとうございます!」

 三人が声を揃える。


「ただし――ジーノ」

「は、はいっ!」

「二日酔いは“試練”の一種には含まれないからな」

「……はい、肝に銘じます」

 小さく肩を落とすジーノの横で、リオが笑いをこらえ、エレニが苦笑いを浮かべる。


「さて、世界樹の機能が戻った今、調査隊には十日の休暇を与える。

 その間に、エレニはゼウスへ。メリノエとマカリアはハデスへ報告するよう伝えておく」


「承知しました」


「旅の疲れもあるだろう。――今夜は祝賀会だ。

 盛大にやるから、覚悟しておくように」


「ありがとうございます!」

 三人の顔に、再び笑顔が戻る。


 窓の外では、黄金の光をまとった世界樹が静かに揺れていた。

 その光は、彼らの帰還と、新たな始まりを祝福するように学院を包み込んでいた。

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