05話 魔法修練
ケガが治ったリオは、家で一緒に暮らす事になった。
私が一人の時、誰かが一緒にいるほうが安心だとパパもママも賛成してくれた。
リオは、2足歩行ができレイピアも使える。
ペットというよりは、執事といる感じだ。
最初にリオと出会ったのは、ガリガリで小さな子猫だった。
泥だらけになって餌を探していたところを、拾ってあげた。
リオが、紳士的な猫とは知らなかったなぁ…。
私は、眠りから覚めない妖精のそばに近寄り話かける。
「妖精さん、どうしたらあなたは目を覚ましてくれるの?
もし、あなたがレイなら話したい事がいっぱいあるよ。
今は、リオも一緒にいるんだよ?だからどうか目を覚まして…」
金色の細い糸のようなサラサラとした髪をなでた。
しかし、妖精はまだ眠ったままだった…。
「エレニ、ちょっといいか?」パパに呼ばれる。
テーブルに近づくと、パパとママとリオが座っていた。
「まぁ、座りなさい。」
「うん…。」そう言って、空いてる椅子に座る。
「お前の魔法の事なんだが、パパもママも魔法の事は詳しくない。
だから、正しく魔法使えるように魔法修練所へ行ったほうが良いと思うんだが。どうだ?」
「魔法修練所?でも、それじゃお金が必要なんじゃない?」
「あぁ、冒険者ギルドで未熟な魔導士を教えているところなんだ。
子供のうちから魔法を使える人なんて余りいないんだが、
ギルドマスターから了承はもらっている。一度、行ってみないか?」
「うん!行く!」
「私も、お供させてもらいます」
「エレニ、頑張ってね。ママも応援するわ」
こうして、私とパパとリオの3人は馬に乗り街に出かけた。
「わぁ、市場があるー!」
はじめて見る、街の様子に目を輝かせた。
色とりどりの野菜や果物、花や食べ物、雑貨などが並んでいる。
焼きたてのパンの匂いと、果物の甘い香りが風に混じって流れてきた。
商人たちの声が威勢の良い声が響く。
馬を降り、冒険者ギルドに入る。
ギルドの中は冒険者達でにぎわっていた。
「やぁ、マスター」
「おう、ハルマ待ってたぜ。その子か?魔法修練に入るっていうのは」
「あぁ、そうだ」
「おや?そちらさんは、ケット・シーじゃないか。珍しいな」
リオは姿勢を正し、丁寧に一礼した。
「はじめまして、リオと申します。エレニ様の執事をしております」
「はぁー。こりゃたまげた。子供が妖精の執事連れてるなんて聞いたことないぜ」
「色々あってな。まぁ、よろしく頼むよ」
「おう、任せろ、俺はヒューゴだ。よろしくな!早速案内しよう。お嬢ちゃんこっちだ」
ギルドマスターの後ろについていくと、修練場に連れていかれる。
「各武器に分かれて修練所があるんだが、ここが魔法修練所だ」
中に入ると、黒板と机と椅子が並んでいる部屋と、奥には実技用なのか的が置いてある庭があった。
「アテナ、ちょっといいか?彼女がここで教えている女神様だ」
「え?女神様が、先生?」
「はじめまして。アテナと申します」
その声は鐘の音のように澄んでいて、部屋の空気が一瞬だけ静まった。
サラリとした長い赤毛に琥珀色の瞳が輝く。
「最近は、ハデスによる影響が強く魔物が多くなり、皆さんが安心して生活していく上で、
少しでも力になれたらと思い、ここで剣技と魔法を教えています」
「エレニです。よ、よろしくお願いします」
「あなたは……。いえ、何でもありません。まず、魔法は試してみましたか?」
「はい。えーっと、水と雷、それから癒しが使えました。それから、物を動かしたりもしたかな?」
「そうですか…。では、外の的に魔法を当ててみましょうか」
奥の庭に行き、的の前に立つ。
「水か雷どちらかの魔法を試してもらえますか?」
「えーっと、水は失敗したから雷で!」
「わかりました」
あの時は、無我夢中だったけどもう一度できるかな……。
手をかざして、頭のなかに雷をイメージ……。
呼吸を整えて……。
バリバリバリバリ!!!!
「ほう…。お見事です。先ほど、水は失敗したと言っていましたが、どのような失敗だったのですか?」
「頭の中では、的に向かってあまり強くない水が出るようイメージしたんです。
そしたら、的じゃなくて自分の頭にかかちゃって…」
「ふふふ。そうですか、通常、魔法を使う際に杖や剣を使ったほうが魔法は安定しやすいです。
高価な物でなくてよいので、用意すると良いかもしれません。
あなたの場合は剣より杖のほうが軽くて使いやすいかもしれませんね」
「はい!」
「では、明日は杖を持参していらしてください。
それから、物を動かしたりも出来るとの事なので日常に密着した魔法も使えるようですね。
お掃除や整理整頓といった家事などを行う際に、少しずつ試していかれるとイメージも強くなり、
魔法も安定してきますので試してみてください。何か質問はありますか?」
「あ……えーっと、癒しの魔法で妖精を治す事はできますか?」
「妖精ですか…?」
「はい。私の家に妖精が居るんですが、私が赤ちゃんの頃からずっと眠ったままなんです。
どうしたら目覚めさせる事ができるか知りたくて…」
「妖精のケガなら治すのは、可能です。普通、妖精は病気にはならない生き物なのですが…」
「そうですか……」
「気になりますね。私も調べてみますね」
「はい!ありがとうございます!!」
夕暮れの空に浮かぶ雲が、雷のように淡く光っていた。
――あの日の力が、また目を覚まそうとしている気がした。




