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シングルマザーが転生した冒険者は女神様でした!  作者: 珠々菜
冥界編

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55話 冥界の晩餐

 ネクロマンディオの大広間。

 魂石が幽かに輝き、漆黒の柱に淡い光が反射する。

 長い黒曜のテーブルの上には、冥界ならではの晩餐が整えられ、

 光と影が混ざる幻想的な雰囲気が広がっていた。


 前菜:幽光リンゴと影の茸のサラダ


 漆黒の皿に、銀色に透き通る幽光リンゴの薄切りと、影の茸のソテーが盛られている。

 リンゴは甘く冷たく、噛むと微かな渋みが広がり、魂に触れるような感覚をもたらす。

 茸は香ばしく、土の香りが深みを添える。


 リオが恐る恐るリンゴを口にする。

「……甘い……でもちょっと冷たい……」

 マカリアが微笑む。

「冥界の果実は、ただ味わうだけじゃなく、魂を揺さぶるのよ」


 副菜:漆黒のブドウとザクロの蜜漬け


 漆黒のブドウ“タルタロスの実”と、赤く光るザクロの蜜漬けが並ぶ。

 ブドウは生食で微かな苦味、加熱すると甘みが増し、舌の奥まで染み渡る。

 ザクロは甘酸っぱく、わずかに苦味が残り、心を揺さぶる味わい。


 エレニはそっとザクロを口にし、目を細めた。

「……甘いのに、深くて……不思議……」


 ペルセポネは青いカップに注がれた冥界花茶を差し出す。

 一口飲むと冷たくも温かくもあり、心が清らかになる。


 メイン:ザクロとアスフォデロス兎のロースト


 漆黒の大皿に盛られたメイン料理は、深紅に輝く「ザクロとアスフォデロス兎のロースト」。

 外側は血潮のように赤く、焼き目からは甘みとほのかな苦味、土の香りが立ち上る。

 ザクロの種が散りばめられ、噛むたびに甘酸っぱさと肉の深みが絡み合う。


 ハデスは静かに一切れを口にし、瞳がわずかに光を帯びる。

「味はどうだ?」

「……甘いけど、深くて苦い……でも美味しいです」

 エレニが答えると、マカリアは微笑む。

「冥界のメインは、魂に触れる味なのよ」


 デザート:冥界の夜の果実タルト


 深紅のタルト生地に、紫の幽光ベリー、赤いザクロ、銀色のリンゴが散りばめられ、青白い蜜が光る。

 一口食べると、甘酸っぱさと微かな渋みが混ざり、舌だけでなく魂まで満たされる。

 タルトの上のハーブ花蜜の結晶が、闇の広間に小さな星々のように輝いた。


 リオはタルトを見つめ、目を輝かせる。

「……冥界のデザートって、食べるのがもったいないくらいきれい……」

 エレニも頷き、食卓の光景に息を呑む。


 冥界の晩餐会は、ただの食事ではなく、光と影、死と再生、魂と命の繋がりを体験する儀式のようだった。

 香り、色彩、冷温感、甘酸っぱさと苦味――

 すべてが生者と冥界を結び、王家と客人を静かに結び付ける。


 闇の中で微かに揺れる魂石の光が、晩餐の余韻を包み込み、夜は静かに深まっていった。


 晩餐会の最後、デザートのタルトを口にしたエレニたちは、満たされた余韻の中で静かに席を立った。

 漆黒の広間の空気は、魂石の光と料理の香りでまだ柔らかく温かく、誰もが少し夢見心地だった。


「ふう……お腹いっぱい」

 ジーノが背伸びをすると、マカリアが微笑む。

「冥界の晩餐は、ただの食事じゃないのよ。魂まで満たされる体験なの」


 ハデスが静かに立ち上がり、長い影を床に落とす。

「お前たち、今夜はゆっくり休め。疲れは冥界の温泉で癒すと良い」

 晩餐会の余韻に浸りながら、皆はそれぞれの湯殿へと向かった。

 黒曜の廊下を抜けると、温泉の蒸気がふわりと立ち込め、青白く光る湯面が幻想的に揺れている。


 《女湯》


 メリノエ、マカリア、エレニ、ペルセポネはそれぞれ湯に浸かり、柔らかな蒸気に包まれる。

 湯面は淡く青白く光り、魂石の光が底から微かに瞬く。

 湯に触れると体にじんわり温もりが広がり、心まで解けるようだった。


「……冥界の温泉って、すごく静か……でも温かい」

 エレニが湯面を撫でながら呟く。

 マカリアが微笑む。

「ここでは、心も体も洗われるのよ。魂の疲れまで取れる気がする」


 ペルセポネは静かに湯に浸かり、優しく微笑む。

「今夜は安心して、楽しんで……冥界でも、こうして穏やかな時間を過ごせるのよ」


 闇の中で、魂石の光が湯面に反射し、さざめくように揺れる。

 晩餐会の甘酸っぱい果実や香りの余韻が、体の奥に残っていた。


 《男湯》

 一方、リオとジーノは黒曜の扉をくぐり、別の蒸気立ち込める浴室へ。

 湯面は同じく青白く光り、静けさが二人の緊張を溶かしていく。


「ふう……冥界の温泉って、思ったより落ち着くな」

 ジーノが肩まで湯に浸かり、深く息を吐く。

 リオは湯に手をかざし、青白い光が指先に映るのを見つめた。

「……冥界なのに、生きてる実感ができて、不思議な感じがします」


 二人はしばし無言で湯の温もりに身を任せ、晩餐会の興奮を静かに消化する。

 温泉の静寂と温かさは、言葉よりも心を通わせ、友情や信頼を深める時間となった。


 女湯も男湯も、冥界の夜は深く、静かに広がる。

 魂石の光が湯面に反射して揺れ、晩餐会で味わった甘酸っぱい果実や香りが

 まだ余韻として残っている。

 温もりと光に包まれたこの時間は、冥界での初めての夜の思い出として、彼らの心に刻まれた。


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