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シングルマザーが転生した冒険者は女神様でした!  作者: 珠々菜
アカデミー編

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37話 もう一人の私

 

 気が付くと、エレニは寄宿舎のベッドにいた。

 時計は夜中の2時を指し、止まっている,


(まだ、時間が止まったまま……?

 アカデミーの時計は、すべて時計塔を中心に動いてるって聞いたな……)


 ため息をひとつ、エレニは薄暗い部屋を抜け出す。

 魔法の杖で淡い光を灯しながら階段を降り、廊下を進む。

 時計塔の中心で原因を突き止めなければ――。


 階段を上り、最上階へ。

 そこには青黒い水晶玉が置かれていた。


 カイロスからもらった指輪が強く光り、反応している。


(どうやら、これが悪さをしてるみたいね……)


 杖を掲げ、目を閉じたその瞬間――


 自分そっくりの少女が立っていた。


「え!?」


「ふふふ、こんばんは、エレニ」


「え、えーっと……こんばんは」

(鏡じゃない……。ドッペルゲンガー……?)


「ずいぶん、驚いてるわね」


「ここまで自分にそっくりな子を見るのは初めてだから……って、どうして私の名前を?」


「知ってるわよ。お母さまのお腹の中から、一緒にいたじゃない」


(き、聞いてないよーーーーーーー!?

 胎内の記憶まで共有されるとか、想定外すぎる……!)


「驚くのも無理ないわ。初めて会ったのだから。

 私の名前はセレナ。あなたの妹よ」


(妹!? 前世では妹なんていなかった......エレニになってからの妹、ってこと……?)


「知らなくて当然よ。だって私は生きて産まれなかったのだから」


「え……?」


「双子だった。でも、生きて産まれたのは、あなただけ。

 あなたが、私の分の“時間”を全部もらったのよ」


(ややこしい上に、重すぎる話――!)


「だからね、エレニ。あなたに返してもらう。

 私の時間も、存在も、名前も――」


「ちょ、ちょっと待って!?

 いきなり姉妹の怨霊ムーブ!? 早すぎるよ展開!」

(頭の中、ぐちゃぐちゃ……)


 セレナの瞳が淡く光り、空気が一気に冷たくなる。

 塔の水晶玉が共鳴し、青い光が脈打った。


「私を忘れた世界を、少しだけ止めるの。

 あなたも、一緒に止まってくれればいいのに――」


 エレニは思わず一歩下がり、杖を握り直す。

(やばい、説得とかじゃどうにもならない……!)


 それでも、どこかで確信していた。

 ――この子は、本当に怒っているわけじゃない。

 ずっと、ひとりで悲しんでいたんだ。


(なら……止まるわけにはいかない。進んで、取り戻すしかない)


「ごめんね、セレナ。

 でも私、動く。時間も、あなたも、取り戻すために!」


 指輪が強く輝き、冷たい風が塔を吹き抜ける。


 エレニは深呼吸し、杖をしっかり握り直す。


「セレナ……私、あなたを元に戻す方法を考える。だから、暴れないで」


 セレナは微笑む――いや、微笑んでいるように見せているだけだった。


「ふふ、面白いじゃない。どうやって、ひとりで?」


 エレニは水晶玉を見つめる。

 冷たい光が塔の中で脈打つたび、時間の流れが揺れる。


(指輪があれば、時間の干渉は感じ取れる。

 ここから先は……私の魔力だけが頼り)


 杖を掲げ、心の中で魔力の波を集中させる。


「わからない、でも必ず方法は見つける!だから時間を頂戴!」


 杖を振り、指輪と共鳴させる――

 時間の歪みが吸収され、逆流する。

 青黒い光が渦を巻き、水晶がひび割れ、粉々になって消えた。


 時計塔の時計が元に戻り、コチコチと秒針を打つ。


 いつの間にか、淡い光が窓から差し込み、アカデミーの廊下を柔らかく照らしていた。

 昨夜の異変が夢だったのか現実だったのか――まだ、判然としない。


 深呼吸ひとつ。

 冷たい石造りの床を踏みしめ、食堂へ向かう。

 朝の光と仲間たちの声――その当たり前の光景が、今はひどく恋しかった。


 角を曲がると、ジーノの姿が見えた。


「おはよう、ジーノ」


 声をかけると、彼は肩を跳ねさせ振り返った。

 その瞳の奥にも、昨夜の“何か”を思い出したような影がちらつく。


「お、おはよう……エレニ」

 小さな返事。声に張り詰めたものが残る。


「どうしたの? お化けでも見た顔して」


 いつものエレニだと知り、ジーノは胸の中でほっと息をついた。


 食堂に入ると、リオ、ディオ、マカリア、メリノエがすでに席についていた。

 陽光が差し込み、湯気の立つテーブルを金色に染める。

 その温かさに、心が少しほどける。


「おはようございます、エレニ様」

 リオが安堵の笑みを浮かべる。


 テーブルには美しい朝食が並んでいた。

 焼きたてクロワッサン、香ばしいトーストに溶けかけのハーブバター。

 カリカリに焼かれたベーコン、軽く蒸した季節野菜。

 薄紅色のトマトとハーブの魔力スープが湯気を上げる。


「今日は“活力の朝食”ですって」

 マカリアがスプーンを手に取り、スープの香りをかぐ。


「香りだけで元気出そうだな!」

 ジーノが覗き込み、思わず笑みを漏らす。


「パンも新作みたい。甘さ控えめで、朝の魔力バランスを考えてるらしいわ」

 メリノエが微笑みながら皿に置く。


「香ばしくて柔らかい。さすが学園の食堂だな」

 ディオはベーコンを頬張り、満足そうにうなずく。


 エレニはスープをひと口。

 トマトの酸味とハーブの香りが絡み合い、体の芯が温かくなる。


「……みんなで食べると安心するわね」


「今日は調査の日だし、しっかりエネルギー補給しないと」

 リオが笑い、いつもの調子を取り戻したかに見えた。


 朝食後、リオはエレニ、ジーノ、アイアスを中庭に呼び出した。

 冷たい朝の風が芝を揺らす。


「やぁ、待たせたな」

「忙しいところ、呼び出してすみません」


 アイアスの視線がまっすぐエレニに向く。


「……私の顔に何かついてる?」

「あ、いや……いつものエレニで安心しただけ」

「なにそれ、どういう意味?」


 ジーノが苦笑しながら口を挟む。

「昨夜、アイアスも俺も――“エレニ”に会ったんだ」

「……は?」


「そっくりなんだよ。見た目も声も。でも、なんか違った」

「違うって?」


「女らしいというか……色っぽいとか」

「色っぽくも女らしくもなくて悪かったわね」

「違うって!そういう意味じゃ――!」

 

 アイアスが咳払いして割り込む。

「とにかく、昨夜の彼女は“君”ではなかった。それだけは確かだ」

「ふ~ん。アイアスも誘惑されたんだ~?」

「ゆ、誘惑など……」

「あやしい……」

 

 エレニは眉を寄せ、しばらく沈黙した。

 やがて、ぽつりと口を開く。


「実はね、私……“時間の檻”に閉じ込められてたの」


「時間の……檻?」  

 リオの声がわずかに震える。


「うん。そして、姿は見えなかったけど――“カイロス”って名乗る人が現れたのよ」


「カイロス……時間を司る神か」

   アイアスの眉がわずかに動く。


「ええ。カイロスさんは言ってた。“誰かが時間をいたずらしている”って。

 それで、私を元の時間に戻してくれたの」


「世界樹の調査を妨害してる可能性もあるな」

   リオの表情が引き締まる。


「でも、ヘラには時間の干渉能力はないはずだ」

 アイアスが腕を組み、思考を巡らせる。


「もう一人の“エレニ”と、時間のいたずら……。嫌な組み合わせだな」


「そうだ、それでね」

   エレニは指にはめてる小さな指輪を見せた。


「カイロスさんからもらったの。この指輪をしてると、時間の影響を受けないみたい」  


 リオはそれをじっと見つめた。

   淡く光る金の指輪――そこに、複雑な時紋の刻印が浮かんでいる。


「……これなら、対抗手段になるかもしれませんね」

「ストス先生に相談して、解析してもらおう」  


 エレニは小さくうなずく。


「それから、自分の”そっくりさん”に会ったんだ」


「え??」


「おいおい、マジかよ……」


「それって、やっぱり……」


「うん。ジーノとアイアスが会ったのは彼女でしょうね。彼女の名はセレナ。私の双子の妹だけど、産まれた時に亡くなった子なの」


「えええ……いきなりホラーかよ!」


「でも、幽霊ではないんだよねぇ」

 エレニは肩をすくめ、ちょっと苦笑する。


「そうか!あの時の星は、そういう事だったのか……」

 リオが何か、思い出したようにつぶやく。


「星って…?あー!運命の人か!?」

「そうじゃなくて……」


「セレネア王国に行った時に見た星の事か」

「そうです」


「それより、会ったって……どこで?」

「え~っと、時間の檻から戻ったあと、まだ時間が止まってたでしょ?

 それを直すために時計塔に行ったら、いたのよね」


「なるほど……つまり、エレニ様の邪魔をしようと?」

「まぁ、そうね。恨みつらみがてんこ盛りな感じだけど……

 でも結局、私が時間をもらって、時計塔の怪しい水晶を壊して時間を戻したってわけ」


「よく時間もらえたな……」

「と、とにかく彼女と時間の事はもう少し情報が必要かな」


「先が思いやられますね……」


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