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シングルマザーが転生した冒険者は女神様でした!  作者: 珠々菜
アカデミー編

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30話 月下の予言師


リオがエレニと出会う前は、この国で“星詠み”として暮らしていた。


彼の仕事は、夜空を渡る星々の軌跡を詠み、王国の行く末を記すこと。

人々は彼を“月下の予言師”と呼んだが、本人はそんな大げさな呼び名を好まなかった。


「星は未来を語るんじゃない。

 ただ……静かに、世界の今を映しているだけだ」


昼間、彼は霧に包まれた森の奥にある天文塔〈アステリア〉で眠り、

夜になると、塔の最上階に登って空を見上げた。


そこには、無数の星が王国の上に花のように咲き誇っていた。


リオは特製の水晶盤に星光を写し取り、星の運行を読み取る。

その模様を記録することで、季節の巡りや魔力の流れ、

時には災いの兆しさえも察知することができた。


だが、彼の心には、いつしか満たされぬ想いがあった。

夜ごと星々を読みながら、リオは思った。


(この空の下には、どんな世界が広がっているんだろう……?

 星々が語る「外の光景」を、いつか自分の目で見てみたい――)


そんなある晩、彼は星図の中に“異界の光”を見つけた。

それはこの世界の法則に属さぬ、奇妙な星の軌跡。

淡い金色の光――“異界の子”の出現を告げる印。


その星を追ううちに、どうしてもリオは確かめたくなった。


まるで星々が導くように、彼は霧の外の世界へと旅立った。

その旅の果てに、彼女に助けられるのである。


☆ ☆ ☆



リオの目に、懐かしい光が映った。


王国の中央、月光を浴びて浮かび上がる一本の塔。

天へと伸びるその姿は、夜空に咲く一輪の花のように静謐で、美しかった。

〈アステリア〉――星々を読む者の聖塔。


「……帰ってきたんだな」

小さく呟いた声は、霧に溶けて消えた。


隣でエレニが目を丸くする。

「リオ、あの塔……?」

「俺が働いていた場所だ。夜ごと星を見て、星の声を記していた」


馬から、リオはゆっくりと降りた。

塔を見上げると、かつて自分が磨いた水晶盤が、窓辺に淡く光っているのが見える。

あの光は、まだ自分を覚えているのだろうか。


(星々はいつもここにあった。

 俺だけが……外へ出たんだな)


かつての夜、彼はこの塔で何百という星を読み、

何度も、世界の運命を図に描いた。

それでも、未来を“確定”させたことは一度もない。

星は道を照らすだけ――歩むのは人の意志だ。


そんな自分の信念を胸に、リオは静かに笑う。

「もう一度、あの星を見たいな」


エレニが微笑み、手を差し伸べた。

「行こう。リオの大切な場所、見てみたい」


リオはその手を取る。

指先に触れたぬくもりが、冷たい月光の中で確かに感じられた。


塔の扉がきしむ音を立てて開く。

中は変わらぬ静けさ――

天井には、かつて彼が描いた星図が今も淡く光っていた。


「懐かしい……」

リオの瞳に、星々が映り込む。

それは、あの頃と同じ光――けれど、彼の中の世界はもう違っていた。


(星を読むだけだった俺が、

 今は“誰かと同じ空”を見上げている)


外では、霧の間から夜の星々がひとつ、またひとつと顔を出す。

エレニと並んで空を見上げながら、リオはそっと呟いた。


「……星々は、また新しい物語を描き始めている」

「良いところだな」


 関心するように、アイアスは空を見つめる。

「リオは、ここで暮らしてたんだな」


リオは改めて、水晶盤を覗き込む。


「あれ……?」


水晶盤の上に、ひとつ、見覚えのある光。

淡い金色――かつて“異界の子”の出現を告げた星。


だが、そのすぐ隣に、同じ色、同じ明るさの星が並んでいた。

二つの光は寄り添うように、軌跡を描いている。


(……そんなはずはない。

 この座標には、星はひとつしか存在しなかった)


リオは瞬きをしてもう一度確認する。

それでも、二つの光は消えない。

まるで互いの存在を映し合うように、淡く瞬いていた。


「どうかした?」

エレニが覗き込む。

リオは少し間をおいて、微笑を作った。


「いや……何でもないです」


けれど、胸の奥に、微かな違和感が残った。

星々の示す“対の光”――

それが何を意味するのかを、この時の彼はまだ知らなかった。


(同じ星が、もう一つ……。

 まるで――鏡の向こうに、もう一人の光がいるみたいだ)


ジーノが笑いながら肩を叩く。

「さては、運命の人でも見つけたか?」

「そんなんじゃありません」


「さーて、そろそろエレニの母親に会いに行こうか」

「そうね。行こう」


リオはもう一度、名残惜しそうに水晶盤を見つめた。

淡い双光が、まるで何かを告げるように静かに揺れていた。

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