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シングルマザーが転生した冒険者は女神様でした!  作者: 珠々菜
アカデミー編

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28話 回復の朝

 

 ――アカデミー 医務室――


 日が沈み、空の雲がインクを染み込ませたようにオレンジ色に染まる。

 窓からは、優しい風が吹いていた。

 医務室には、エレニを静かに仲間たちが見守っていた。


「体力も魔力も、相当消耗したのでしょうね……」


 アテナが心配そうな顔をして覗き込む。


「くそっ…もし封印がまだ効いていたら、こんな事には…」

 ジーノは、悔しさを滲ませた。


「あんな、化け物を一人で倒すなんて……」

 アイアスは、言葉をつまらせつつも、そっと彼女の手をそっと握った。


「大丈夫、必ず目を覚ますはずです。今は、そって休ませてあげましょう」


 ジーノとリオが部屋から出ようとしたが、アイアスはそっと手を握ったまま、エレニの傍に留まった。


「俺は、もう少しここに残るよ」

「わかりました。エレニ様がお目覚めになったら、お知らせください」

「わかった」


(俺は、エレニの力を過大評価しすぎたのだろうか。神の娘とはいえ、元は人間ましては、年若い少女。

 俺の考えは甘かったのではないか?)


 アイアスは、心の中で自問自答を繰り返していた。


 エレニの穏やかな呼吸だけが静かに響く。

 夕暮れのオレンジ色の光が、彼女の髪を優しく照らしていた。

 アイアスは手を握ったまま、その寝顔を見守る。


 しかし、瞳の奥に、過去の記憶がふっと影を落とす。


 ――あの戦場。神々の戦争が世界を震わせた日。

 空は硝煙に染まり、雷が大地を裂く。

 燃え盛る城壁の残骸、崩れ落ちる兵士たちの叫び。

 まだ少年だった自分は、戦いに巻き込まれ、ただ目の前の敵を斬り払うしかなかった。


「アイアス、俺がそっちを守る!」


 仲間の声。振り返ると、そこにいたのは自分の最も信頼していた親友だった。

 盾を構え、体を張って自分をかばったその瞬間……。


 ――閃光と轟音。


 衝撃が襲い、親友はその場に倒れた。

 息を荒げる自分の目の前で、命を懸けて守ってくれたのだ。


「う……嘘だろ……。くそっ……俺は……俺は…」


 その心の苦痛は、大声で叫ぶも、声にならず、後に無力さだけが胸を締め付けた。


 その記憶は、今も鮮やかに痛い。失った痛み、守れなかった後悔。

 しかし今は違う。


 目の前には、守るべき存在――エレニがいる。

 あの時とは違い、行動できる自分がここにいる。


「……もう、誰も失わない」


 握った手に力を込め、アイアスの瞳が鋭く光る。

 かつて守れなかった親友への想いを胸に、今度は必ず守ると誓った。


「大丈夫だ、エレニ。俺が守る」


 外の風が窓から入り、夕暮れの光が医務室を満たす。

 アイアスの背に、戦場で培った冷静さと決意が重なる。

 静かな部屋の中、守護者としてエレニの目覚めを待っていた。


 ――翌朝――


 小鳥のさえずりとともに朝日が差し込む。

 エレニは、ゆっくりと目を覚ました。


「あれ…ここは…?」


 手を握ったまま眠っているアイアスに気づき、少し驚く。


「エレニ!目を覚ましたか」

 安堵の表情を浮かべるアイアス。


「う…うん。ここは?」

「アカデミーの医務室だ。オピオタウロスを討伐した後、君が倒れ運んだのだ」


「そっか…私、倒したんだ…」

 体のだるさを感じながらも、微笑むエレニ。


(内臓を燃やした後、身体に入り込んできた魔力に圧倒され気を失ったんだ……)


「無理するな。何か食べるか?」

「うん…」


「じゃあ、みんなに頼んで食べ物を持ってきてもらおう」

「ありがとう」


 《アイアスだ。エレニが目を覚ました。ついでに食べ物も持ってきてもらえるか》

 《承知しました》


 しばらくする、とリオとジーノが駆け込んできた。


「エレニ!!」

「エレニ様、お目覚めですね!」


「うん…ごめん、みんな…心配かけて」

 エレニは、弱々く微笑む。


 ジーノがほっと息をつき、頭をかく。

「いや、無事でよかったよ…」


 リオも落ち着いた笑みを浮かべる。

「 魔力の残りも少ないようですし、無理は禁物です」

「うん、ありがとう」

「食事は摂れますか?お持ちしましたが…」

「いただこうかな」

 医務室の窓から朝日が差し込む中、リオとジーノが運んできた朝食が小さな机に並べられた。

 パン、スープ、果物、そして温かいハーブティー。戦闘後の身体に優しい、回復を意識した献立だ。


「さあ、無理せず食べて」

 アイアスがエレニの手を軽く支え、スプーンを差し出す。


「うん…ありがとう」

 エレニはふらつきながらも、ゆっくりスープを口に運ぶ。

 温かさが体に染み渡り、魔力の疲労も少しずつ軽くなるのを感じる。


 ジーノがふざけて言う。

「ほら、食べなきゃ力出ねーぞ」

「…わかってる」

 エレニは小さく笑みを浮かべ、果物をひと口。酸味が口の中で爽やかに広がる。


 リオが静かに見守る。

「回復したら、課題もやらないとですね」

「あー。忘れてた。世界樹の課題終わってないや」


 アイアスはその言葉に笑みを返す。

「ははは。まぁ、無理はするな」


 エレニはスープを飲み干すと、次はパンをかじり、ゆっくりと回復の時間を楽しむ。

 体の奥まで温かさが染み込む。戦いの疲れと緊張が、少しずつ解けていく。


「…美味しい」

 小さな声に、ジーノもリオも微笑んで頷く。

「よかった、しっかり食べて少しずづ回復していこう」


 朝の光が差し込む医務室で、エレニは初めてゆったりとした気持ちで窓の外を見つめた。


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