27話 オピオタウロス討伐
洞窟の奥へ一歩、また一歩――四人の足音だけが湿った空間に響く。
扉の向こうは、先ほどのワームの残響がまだ空気に残り、黒い霧が濃く垂れこめていた。
そして、三つ目の扉が現れる。
三つ目の扉は、人間を併せ持つ血…。
エレニは、水の入った瓶を取り出し手を洗う。
先ほど切った、指先からまだ血が滲むのを確認した。
そして、軽く息を吐く。
「開けるよ…」
封印の上に手をかざす。
封印は、波打つように赤黒く光輝く。
二つ目の扉より、更に分厚い扉が動きだす。
ズ……ズズズ……ズガガガガガガガ!!!!
扉が開くと同時に、地響きが鳴り動く。
「……エレニ、気を付けて」
アイアスが静かに声をかける。盾を片手に構えながらも、その瞳は少しだけ柔らかい。
エレニはうなずき、杖を握りしめる。緊張し張り詰めた空気に鼓動が響く。
洞窟の奥、黒い霧が立ち込める中で、四方に石の柱が林立している。
中央に現れたのは、圧倒的な威圧感を放つオピオタウロス。
上半身は筋骨隆々の牛、下半身は長大な蛇。
その瞳は黒曜石のように冷たく光り、周囲の黒い魔力を結界のようにまとっていた。
「……オピオタウロスだ」
リオの声が震えを含む。
「ヤバ過ぎるだろ…」
ジーノの声も震える。
エレニは杖を握りしめ、息を飲み込み込む。
背後にはもう誰もいない――この戦いは、自分一人。
手がわずかに震える…。
自分の力を信じ、恐怖を押さえ込む。
「――行くしかない……」
エレニの声が震える。雷の紋章が胸で光を放ち、冷たい霧の中で微かに輝く。
杖を強く握り、胸の紋章が金色に光を放つ。三位一体の血が一つに溶け合った力が、今、全身を貫く。
雷の残滓が指先から迸り、洞窟の石壁を震わせる。
オピオタウロスは地面を踏み鳴らし、低く唸る。
蛇の胴が蠢き、エレニの周囲の空間を渦巻きのように圧迫する。
牛の頭を振り上げ、角を突き出す――
攻撃のタイミングを測るその動作だけで、洞窟全体が揺れるようだ。
「――まずは距離を取らないと!」
エレニは後退しつつ杖を振るい、雷の小撃を放つ。
光の線がオピオタウロスの蛇の胴を走り、鱗を痺れさせる。
だが巨体はびくともせず、角を振り上げて突進してくる。
「くっ……速い……!」
杖を胸前に構え、雷を凝縮させる。
指先から迸る稲妻が、オピオタウロスの胸を貫き、巨大な咆哮が洞窟内に響く。
――しかし、牛の角がエレニの体に迫る。
彼女は一瞬たじろぐが、次の瞬間、全身の力を雷に乗せ、杖を前に突き出した。
「――これで終わりよ!」
稲妻が蛇の胴を駆け上がり、牛の胸を貫き、洞窟の天井まで光が弾けた。
オピオタウロスが咆哮し、石柱を蹴散らしながら後方に倒れ込む。
「まだ……負けない!」
巨体を起こそうとするオピオタウロスに、エレニは瞬間的に間合いを詰め、雷撃を連続で叩き込む。
蛇の胴が痙攣し、角の攻撃は空を切る。
牛の体が大きく揺れ、背筋に力が入りながらも、エレニは杖を握り締め続けた。
「……これが……私の力……!」
全身を貫く力に、恐怖も不安もすべて溶け去った。
オピオタウロスの足元に雷の紋章が眩い光を放ち、三つの魔法陣が頭上に重なる。
回っていた、魔法陣が歯車が合うようにはまると、一筋の光が洞窟の闇を切り裂く。
最後の一撃――
雷を凝縮させた光線が、オピオタウロスの胸を正確に貫く。
“グギャアアアアアアア!!!!!”
巨大な咆哮と共に、オピオタウロスは完全に崩れ落ちた。
洞窟に静寂が戻り、黒い霧がわずかに揺れる。
エレニは杖を握りしめたまま立ち尽くす。胸の奥に、達成感と戦いの余韻が波のように押し寄せる。
「……終わった……」
洞窟に静寂が訪れる。黒い霧がわずかに揺れたが、オピオタウロスは動かない。
近くでアイアスが静かに歩み寄り、無言で盾を下ろして隣に立つ。その視線がエレニに向けられる。
「……大丈夫か?」
低く、柔らかく、戦場では聞き慣れない声。
「……はい、みんなのおかげで」
エレニは小さく微笑み、胸の中で温かい感情が広がるのを感じる。雷の残滓がまだ手に残るが、それ以上に心が震えていた。
「内臓を取り出して、焼かなきゃ……」
エレニは、魔法でオピオタウロスを解体し、分別した。
(冒険者ギルドにいた頃を思い出すな…)
内臓だけ残し、魔法の杖をかざし火の魔法で焼く。
すると、瞬時にそれは燃え金色の灰が粉となり浮遊すると、魔力のようにエレニの体に流れ込む。
エレニの瞳孔に稲妻の模様が一瞬光り、力が全身を駆け巡った。
(うわ……な、何……なんかすごい力が漲ってる?でも…意識が…)
「無事、終わったな…お疲れさん」
アイアスはエレニの頭をぽんぽんと軽く叩いた。
エレニは振り返り、微笑むと…そのまま力尽きた。
「エ…エレニ!エレニーーー!!!」
洞窟にアイアスの声が響き渡る。
オピオタウロスの素材を回収していた、リオとジーノもそれに気づき駈け寄る。
「エレニ!!」
「エレニ様!!!」
エレニは、目を閉じたままアイアスの腕に抱かれていた。
アイアスは、アテナに通信機で連絡を取る。
《アテナ様、アイアスです》
《状況は?》
《オピオタウロスは、無事討伐しました》
《内臓も処理しましたか?》
《はい、エレニが火の魔法で焼きました…ですが…》
《何かあったの?》
《エレニが、その直後に倒れてしまい。呼びかけに応じません》
《……わかったわ。今すぐ私がそちらに行って転移魔法でみんなを連れ戻しましょう》
《恐れ入ります》




