26話 封印の扉
アカデミーの広場に、空気中の光の粒が渦となりそこからアテナが再び姿を現す。
エレニ、ジーノ、リオの三人は緊張した面持ちで彼女を見つめた。
「さて、エレニ。討伐任務を正式に伝える」
アテナは落ち着いた声で告げる。
「私ですか……本当に、私が?」
エレニは少し戸惑う。
「そう。オピオタウロスは、神式封印三つの扉に隔たれている。
その扉を開けられるのは――神の血を持つ者、妖精との契約者、人間の血を併せ持つ者のみ」
リオが冷静に付け加える。
「要するに、エレニ様が“三位一体”を兼ね備えているわけです」
「……三位一体って、私、そんなに特別なの?」
エレニは眉をひそめる。
ジーノはにやりと笑い、肩を叩く。
「そうだ。方向音痴でも特別って言われるんだぞ。誇れ!」
「……誇れるような方向感覚じゃないんですけど」
エレニは小さく呟き、地図を握りしめる。
アテナは微笑みながら、二人に向けて説明を続ける。
「オピオタウロスを倒した後の内臓は、必ず火で燃やすのよ」
「燃やす?」
ジーノが首を傾げる。
「燃やした時に得る力をヘラが狙っているのです。
そして、オピオタウロスを討つのは――エレニ、あなたよ」
アテナの言葉に、エレニは一瞬、息をのむ。
「え、ええっ!? 私一人で!?」
「うむ。しかし今回、補助として――アイアスも同行する」
アテナは一歩前に出て告げる。
エレニは驚く。
「アイアス…一緒に来てくれるんですか?」
アイアスは静かに頷く。
「お前達だけでは、危険すぎる」
ジーノは笑いながら、肩越しに小声で言う。
「やったな、迷子チームに戦術の盾がついたぜ!」
リオは金の瞳を細める。
「遊びじゃありませんよ。作戦通りに動くこと」
「あ、そうだ…。行く前にこれ渡しておくね」
エレニは、アイアスとアテナに使い方を説明しながら通信機を渡した。
「へぇ~。エレニが作ったの?」
「まぁね」
「ありがとう。これで撃退報告待ってるわ」
「はい、それでは、いってきます!」
エレニは、四人を囲んで転移魔法をかけた。
ーー聖林奥 洞窟前ーー
四人は転移魔法で洞窟の前に出た。
アイアスは剣を持ち、盾となりチームを守る覚悟を見せた。
エレニたちは決意を胸に討伐任務へと踏み出す――
2つ目の封印の前に立ち、エレニはジーノからナイフを借りる。
左の人差し指の先をナイフで切りる。
「リオ…」
エレニは、リオに手を差し伸ばす。
封印の上に、エレニとリオの手が重なると光が封印の線を辿り光輝く。
ズズズズ……と引きずるような音がしたかと思うと2つ目の扉が重く開かれた。
「開いた…」
「本当に開いたな」
「すげぇや…」
「さぁ、次に行きましょう」
洞窟の奥へ進もうとしたき、地面が揺れ動く。
……ゴゴゴゴゴゴゴッ!!!!!
「な、なに?」
「地震か????」
地面が盛り上がると共に、巨大なミミズのような魔獣が飛び出す。
「ワームだ!!!」
その体は岩のように硬く、口からは低く呻くような咆哮が響く。
「気をつけろ!!」
アイアスが盾を前に出し、魔獣の攻撃に備える。
しかし、その背後――霧の奥、洞窟の奥深くから、冷たい風が吹き抜ける。
黒い光が森の奥で揺れ、扉の封印や魔獣の魔力を間接的に干渉していた。
リオは眉をひそめ、警告する。
「……ヘラです。魔力を操作して、私たちの動きを妨害しようとしています」
エレニは雷の紋章を光らせ、魔法の杖を強く握る。
「……ヘラに邪魔されても、私たちの力で倒す!」
アイアスが前に出て、盾を構えながら指示する。
「魔獣の動きに惑わされるな。攻撃は集中、回避は連携だ!」
エレニは胸の奥で決意を固め、防御魔法をみんなにかけながら前に踏み出す。
「――行くわよ!」
雷光と黒い妨害魔力がぶつかり合い、洞窟前の霧が渦を巻く。
四人は息を合わせ、戦闘の幕を開けた。
雷と剣、盾と――チームの力が一体となり、ワームへ攻撃を開始する。
「気をつけろ!地形を利用して攻撃するんだ!」
アイアスが盾を前に構え、魔法で魔力干渉を抑えながら指示を飛ばす。
ジーノはナイフと剣を握り、素早く体を低く構えながら前進する。
「俺の出番か……!」
リオはレイピアを構え、敵の弱点を正確に狙う。
「雷魔法と連携して隙を作る。私が支援します」
エレニは両手で雷の魔力を集中させ、ワームに向けて稲妻を放つ。
ワームは地面を這い、振動で四人を押し退けようとする。
アイアスは盾で攻撃を受け止めつつ、剣で反撃の隙を作る。
うねうね動くワームに攻撃が定まりにくい。
ジーノはナイフで素早く側面に回り込み、するどい斬撃を入れる。
リオはレイピアでワームの鱗の隙間を突き、攻撃を集中させる。
エレニは雷魔法で鱗を打ち砕き、ワームの動きを鈍らせる。
「冷静に!連携を崩すな!!」
アイアスの声が響き、盾で揺らぎを抑えつつ次の攻撃機会を作る。
雷光がワームの体を打ち、ジーノの剣が更に側面を裂く。
リオのレイピアが正確に弱点を突き、エレニの雷魔法が決定打を与える。
”グギャアアアアアア……”
ワームは咆哮を上げ、倒れた…。
「……よし、次の扉だ」
エレニは胸の奥で決意を固める。雷の紋章が光を放ち、扉に向かって手を差し伸べた。
霧が渦巻き、黒い光が扉を包む。
「次は……オピオタウロス。絶対に討つ!」




