表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シングルマザーが転生した冒険者は女神様でした!  作者: 珠々菜
アカデミー編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/70

22話 世界樹の秘密と三つの泉

 外は、灰色の雲に覆われ陽射しが現れる気配がない。

 アカデミーの最上階にある、巨大なガラスドーム。

 透明な天井を無数の雨粒が叩き、細い筋を描いては流れ落ちていく。


「うう……校内地図が…にじんで見えない…」

「だから言っただろ、紙じゃなくて魔法コンパス使えって」

「だってあれ、喋るんだもん!『進行方向が逆です』とか言ってムカつく!」

「コンパスとケンカしてどうすんだよ…ていうか、コンパス信用しないっておかしいだろ」


(確かにエレニ様、前世でナビとケンカしてた…)リオが心の中で呟く。


 教室に入ると、全員のローブの裾がしっとり濡れていた。

 雨は止む気配もなく、窓の外は雲のグレー一色だ。


 ディアーナ先生が教室に入ってきた。

 薄い翡翠色のローブに栗色の長い髪をゆるくまとめ、瞳は深い森のような色をしている。


「みんな席について。講義を始めるわよ」


 教室の中央には巨大な水晶樹の模型が淡く光り、世界樹のマナ循環を模した装置であることが説明される。


「世界樹は、この世界のすべての生命エネルギーを循環させています。

 幹の部分は魔力の通路、枝葉はマナの分配機構、根は――」


「根は、えっと……魔力の排水管?」

 前列のジーノが小声でつぶやいた。

 後ろでリオが噴き出す。

「ジーノ、それ言い方! 排水管て!」


 ディアーナ先生はくすっと笑ったが、すぐに真面目な表情に戻る。


「まぁ、あながち間違いではありません。ですが“循環管”と呼びましょうか」


 ディアーナが手を掲げると、光の粒が空中に浮かび、やがて巨大な樹の幻が出現した。

 幹がゆっくりと回転し、枝葉には星が瞬く。


「世界樹は命の大循環の軸です。

 天界、地上、冥界──それぞれを繋ぐ、宇宙最大の生命維持装置といっても過言ではありません」


 マカリアが真剣にメモを取り、メリノエは目を輝かせた。

 ジーノは……途中で舟を漕いでいた。


「そこの生徒、夢の世界に旅立たないように」

「っ!? いや、あの、その……世界樹をよじ登ってました!!」

「どんな夢だ……」


 教室がくすくすと笑いに包まれる。

 ディアーナは苦笑しつつ、話しをつづける。


「では眠そうな人もいるので、次は図書館での調査を課題にするわ。世界樹の循環や、マナの三層構造について、各自で資料を確認してきてください」


 メリノエが手を挙げる。

「先生、雨のせいで行内地図が使えない場合、どうすれば迷子にならずに図書館まで行けますか?」


 ディアーナは軽く微笑んだ。

「地図が使えなくても大丈夫。図書館への道は標識と光の魔法灯で案内されるわ。迷ったら、生徒同士で声を掛け合いなさい」


 エレニはうつむきながらも頷く。

「ふふ、声を掛け合えば……まあ、方向音痴の私でも何とかなるかもしれない」


 ジーノは小さく笑い、肩を叩く。

「ほら、コンパスと喧嘩しなくてもいいんだよ」


 授業が終わると、生徒たちはガラスドームを抜けて廊下へ移動する。雨はまだ降り続け、滴る雫が大理石の床に小さな水音を立てる。


 三人は、互いに目配せをしながらゆっくり歩く。雨の匂いと静かな足音だけが、最上階の空間に響いた。


「よし、まずは図書館で資料を確認しよう」

「はい、エレニ様!」

「任せろ!」


 しかし廊下の角を曲がった瞬間、エレニは案の定、方向感覚を失った。

「えっと……左……いや、右? どっちだっけ?」

 ジーノが顔をしかめる。

「やっぱりか……」

 リオは肩をすくめ、心の中で苦笑する。

(エレニ様……)


 廊下の壁にある光の魔法灯に頼りながら、三人は慎重に進む。途中で濡れた床に足を滑らせそうになり、エレニは慌てて手すりにつかまる。

「危ない! 何してるんだ、エレニ様!」

「だって……向こうの扉に図書館って書いてある気がするけど、読めないの!」


 ジーノはため息混じりにエレニの腕を掴む。

「もう、俺が先導するからついてこい!」

「うぅぅ…ごめん…」


 ようやくたどり着いた図書館の入口は、雨に濡れた窓から柔らかい光が差し込む静かな空間だった。扉を押すと、木の香りと紙の匂いが漂い、雨の外の世界とは全く違う空気が流れた。


「わぁ……落ち着く……」

「すごい本の量だなぁ」

「さすが、アカデミーの図書館ですね」


 図書館の奥、埃っぽい木の棚が並ぶ一角で、エレニは背伸びして高い棚に手を伸ばした。

 指先に触れたのは、革表紙に金色の文字で「世界樹の神域と女神の泉」と書かれた古びた書物だった。


「おお……これかも」

 エレニは慎重に棚から取り出し、机に広げる。


 リオが机の上で首を傾げる。

「エレニ様、それすごく古そうですけど……読めます?」

「大丈夫! 解読魔法があるのよ」

 そう言ってエレニは手のひらに小さな光を浮かべ、文字を浮き上がらせる。


 ページをめくるたび、色あせた文字と挿絵が現れた。三つの泉、ウルズ、ミーミル、フヴェル。過去の女神ウルズ、現在の女神ベルダンディ、未来の女神スクルドの3人が書かれていた。


 ページの隅には、三つの泉と女神の組み合わせを示す簡単な図解も描かれている。ウルズの泉は信頼と守護の試練、ミーミルは知恵の試練、フヴェルは戦の試練を意味しているらしい。


「ふむ……これで、世界樹浄化の手順と女神たちの場所が大まかに分かったわ」


 ジーノは小さく頷き、リオは溜め息混じりに言った。

「なるほど……でも、ここからが本番ってことですね」


 エレニはページを閉じ、次の行動の計画を静かに胸に描いた。雨音はまだ止まず、灰色の雲がアカデミー

 を覆っている。だがエレニの胸には、新たな希望と計画が見えてきた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ