19話 ルームメイト
エレニは寄宿舎に入り、受付へ行く。
ふっくらとした女性が優しく声をかける。
「本日、入学の方ですか?」
「はい、エレニと申します」
「お待ちしてましたよ。これが部屋の鍵です。2階に上がって一番左側の部屋よ」
「ありがとうございます」
鍵を受け取り、階段を上がる。
(一番左側の部屋か…どんな人達と同じ部屋になるんだろう)
ノックすると部屋から「どうぞ」と声が聞こえた。
ドアを開けると、メリノエとマカリアがいた。
「あの…。今日からこの部屋に住むエレニです」
「あら…。あなた…私はメリノエ。よろしく」
「私は、マカリアよ。一緒の部屋に慣れて嬉しいわ。よろしくね!」
「こちらこそ、よろしく!」
「エレニのベッドは、一番窓側よ。机はその向かい側でその隣がクローゼットよ」
「ありがとう…。思ってたより部屋が広いのね」
「おかげで、落ち着いて勉強できそうだよね」
エレニは、机の上に眠っている妖精が入ったカゴをそっと置いた。
洋服をクローゼットにかけて、本や小物を整理する。
片づけを終えたメリノエが声をかける
「かわいい妖精…。眠ってるの?」
「え?妖精?見たい!見たい!」
「しっ…眠ってるから。」
「大丈夫…。訳あって、眠ったままなの」
「そうなの…?なんだか可哀相ね」
少しの沈黙のあと、メリノエが言った。
「ねぇ、エレニ…。私たちと無理に仲良くする必要ないからね?」
「え…?」
「私たち、冥界から来てるからみんな怖がってるでしょ?」
「本当は、みんなとお友達になりたいんだけどね…」
エレニは、少しだけ考えてから微笑んだ。
「私は、無理なんてしてないし、まだ知り合ったばかりじゃない。噂や見た目で判断したくないから…」
「エレニって、変わってる」
「そぉ?」
「うん、変わってる。エレニと同じ部屋になれて良かった!」
「これからの生活、楽しみだね」
「うん!」
三人が笑い合う。
張りつめていた空気がふっと和らいだ。
「そろそろ、夕食の時間じゃない?」
「本当だ、急いで行かなきゃ」
「食堂に行ったら、二人に会わせたい人がいるの」
「あ、もしかして校門で会ったあの2人?」
「そう!リオとジーノ」
「友達になってくれるかなぁ」
「大丈夫だよ!」
整理を終えた三人は、一緒に食堂へ向かうことにした。
階段を下り、広々とした食堂の扉を開けると、温かい空気とガヤガヤと笑い声が聞こえる。
長いテーブルがずらりと並び、天井から吊るされたシャンデリアがキラキラと輝いている。
「わぁ…すごい規模…」
エレニが思わず息を漏らすと、メリノエも同意する。
「大きいね。ここでみんなと食事をするのか」
「早く座ってご飯食べたいな!きっと美味しいんだろうな」
マカリアは笑顔でテーブルを見渡した。
「おーい!エレニ!!こっちこっち!」
遠くの席から、ジーノが手招きして呼ぶ。
「あ、ジーノだ。二人ともあそこに行こう」
メリノエとマカリアを誘い、ジーノとリオの座ってる席へ行く。
「ルームメイトのメリノエとマカリアそして、こちらは、ジーノとリオ」
「よろしく!」と、みんな挨拶を交わした。
すると、魔法で飲み物と料理が運ばれてきた。
焼き立てのパンにスープ、ローストチキン、香草のサラダ、そして大きな果実水の瓶。
「わぁ~!いい匂い」
マカリアは、グラスに果実水を注ぐ。
「すごいご馳走だな!」
ジーノは緊張したようにナイフを手にする。
リオはというと、尻尾を揺らしながら、湯気の立つスープに顔を近づけていた。
「……このスープ、魚のだしが効いてますね。ふむ、悪くない味です」
「リオ、猫みたいなこと言わないの」
「ケット・シーです!」
「はいはい」
ジーノが苦笑する。
そんなやり取りを見て、マカリアがくすっと笑った。
「仲良しなのね、二人とも」
「まぁ、腐れ縁ってやつだ」
「ひどいなぁ、ジーノ。僕のこと、そんな風に思ってたんですか?」
「冗談だよ、冗談」
その様子を見ていたメリノエが、少しだけ口元を緩めた。
「……にぎやかね。こういう雰囲気、嫌いじゃないわ」
「そうだね!」
マカリアが嬉しそうに頷く。
「ここに来て、少し緊張してたけど……こうして話してると、安心する」
「――おい、リオ、ジーノ。お前たち、先に来てたのか」
振り向くと、青に近い黒い髪を後ろで束ねた青年が立っていた。
端正な顔立ちに、鍛え抜かれた体。胸元には〈剣技主席〉の徽章が光っている。
「ディオ!」
ジーノが笑顔で手を振る。
「俺たちのルームメイトで、剣技科の主席なんだ」
「へぇ…主席?」
マカリアが目を丸くする。
「すごい!そんな人と同じ部屋なの?」
「うん、でも見た目よりずっと気さくなんだよ」
ディオは軽く笑いながら席に着いた。
「気さくって……お前らが勝手に懐いただけだろう」
「まぁ、そうかもな!」
ジーノが肩をすくめて笑う。
エレニは少し緊張しながらも、丁寧に頭を下げた。
「初めまして。エレニと申します。こちらはメリノエとマカリアです」
「気軽にディオと呼んでくれ。よろしく、三人とも」
ディオの声は落ち着いていて、どこか安心させる響きを持っていた。
その穏やかな眼差しに、メリノエの警戒心も少し和らいだようだ。
「剣技主席ってことは、試験の時の成績が一番良かったってこと?」
エレニが尋ねると、ジーノが即座に答えた。
「そう!剣技の腕もヤバいけど、判断力とか戦術も抜群なんだ。俺もいつか追いつきたいと思ってる」
「おいおい、そんなに持ち上げるな」
ディオが苦笑する。
「俺だってまだ学ぶことは山ほどあるさ。特に魔法科との連携戦は、まだ課題が多い」
「なるほど…」
「君達は魔法科の一年生だろう? もし剣技の補助や連携に興味があるなら、いつでも訓練場に来るといい。教えてやるよ」
「本当ですか!?ありがとうございます!」
マカリアも嬉しそうに答えた。
リオが立ち上がりグラスを持つ。
「じゃあ、せっかくなので――」
「え?何?」
「新しい仲間に、乾杯!」
「おぉ、いいね!」
六人のカップが軽やかな音を立ててぶつかる。




